"妹のドレスを二十センチ切った" 第2話
仕て直しなど、到底にわない。 夜を回った今、京のどのドレスショップもいていないし、いたところで、このミカドシルクの特殊な織り目を繋ぎわせられる職が数で見つかるはずもなかった。
「、美玖はこれを着てるの」
私が静かにそう告げると、美玖が弾かれたように私を睨みつけた。 その瞳には、かつて私に向けられたことのない、純粋な憎悪が宿っていた。
「どうして……? お姉ちゃん、なんでそんなに私をいじめるの? 私が何か悪いことした?! 事故に遭ったのも私のせいじゃないのに……なんで私の事なを壊すのよ!」
美玖の叫びは、私の胸の奥くに鈍い杭のように突き刺さった。 痛かった。母の平打ちよりも、何倍も痛かった。 だが、私は目を逸らさなかった。 酷な仮面を剥がしてしまえば、私自が崩れ落ちてしまうことをっていたからだ。
「美玖。あなたが悪いんじゃない」
「じゃあなんで!!」
「このドレスが、最初からおかしかったからよ」
私の言葉に、母がヒステリックに声を荒らげた。 「何がおかしいのよ! 世界に着しかない、健さんのお母様が美玖のために選んでくださった最級品よ!」
「そう。最級の『覆い隠すための布』ね」
私はラックにかかるドレスの、幾にもなったたい裏を掴んで持ちげた。
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ずしりと、キロいみが腕にかかる。
「美玖が最初に自分で選んでいたのは、もっと軽くて、きやすい、シンプルなAラインのドレスだったはずよ。のガーデンでになびくような、首が見える軽やかなドレス。それを『格式がりない』『名の嫁として相応しくない』と難癖をつけて却し、真にいこの期に、歩くことすら困難なキロもの布で爪先まで隙なく覆い尽くすこのドレスをしたのは、誰?」
リビングの空気が、ふっと凍りついた。 母の元が微かに引きつり、美玖がハッと息を止めた。
「それは……向こうのご族の、美玖への温かいご配慮じゃないの……!」 母が言い募る声には、らかな揺が混じっていた。
「配慮?」 私は乾いた笑いを漏らした。 「違う。隠蔽よ。自分たちの世体に、傷物の嫁というノイズを紛れ込ませたくないだけの、品な検閲よ」
「お姉ちゃん、やめて……!」 美玖がを塞ぎ、体を丸めて叫んだ。
その反応こそが、何よりの証拠だった。 美玖自も、とっくに気づいていたのだ。 このドレスに込められた、息の詰まるような「悪のない排除」に。
美玖のには、い傷痕がある。
の、美玖は青信号の横断歩を歩いている最、折してきた型トラックに巻き込まれた。 腿骨と脛骨の放骨折。皮膚の規模な挫滅。
集治療でを彷徨い、何度も皮膚移植を繰り返した末に、美玖の命は留め止められた。 を切断せずに済んだのは奇跡だと、執刀医は言った。
だが、代償はあまりにもきかった。 の膝から首にかけて、皮膚はケロイド状に盛りがり、赤の々しい引きつれが、まるでの根のように複雑に絡みついて残った。 どんなファンデーションを使っても、コンシーラーを塗りねても、その凹凸と皮膚の変を消すことはできない。
当歳だった美玖の絶望は、察するに余りあった。 でもの黒いタイツを履き、ロングスカート以はすべて捨てた。 誰かに元を見られるたびに、美玖は怯えたようにを縮めた。
そんな美玖のに現れたのが、学代のサークルの先輩だった健さんだった。
事故からが過ぎた頃、偶然再会した健さんは、美玖のの傷をってもじなかった。 「美玖ちゃんがきているだけで奇跡なんだから。の傷なんて、美玖ちゃんが頑張ってき抜いた証拠だよ。俺は全然気にしない」
その言葉に、美玖がどれほど救われたか。 母がどれほど涙を流して健さんに謝したか。 世田に広な本を持ち、父親は建設会社の役、自も総商社に勤務する絵に描いたようなエリート。
そんな非の打ち所のない男性が、傷物の娘を丸ごとしてくれる。 母にとって、健さんはがに差し込んだ唯の救いのだった。