"目覚めた部下にクビを問われた" 第23話
彼女は、過の記憶を取り戻したのではない。 の記憶しかない彼女が、今、この瞬、目のでボロボロになりながら戦う私を見て―― しく、自らの志で、私というを選び取ってくれたのだ。
森さんは松永に向き直り、テーブルののい『事実確認』を、自らのでスーッと押し戻した。
「サインは、いたしません」 森さんは、はっきりと言い放った。 「私は何も違ったことはしていません。私の記憶の空を、あなたたちの嘘で埋めることは、輪際お断りいたします」
松永は、完全に言葉を失った。 神崎専務は井を仰ぎ、く、い溜息を吐きした。
勝負は、決していた。 組織の論理も、保のシナリオも、の女性が貫いた現の矜持と、の男が引き受けた責任のみのに、完全に打ち砕かれたのだ。
神崎は机ののファイルをパチンと閉じ、ちがった。 「……査問会は、ここまでとする」 神崎は矢野を瞥もしなかった。松永に対しても、淡に言い捨てた。 「松永、所轄の警察署へ連絡しろ。現検証の全データと、坂井支配が提した稟議、森主任の管理シートの原本をそのまま提する。事故調査委員会には、隠蔽の切ない事実関係を報告としてまとめさせろ」
「せ、専務……! それでは、旅館の処分が……!」 松永が青ざめていがったが、神崎は背を向けた。
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「これ以、現のに恥をかかせるな」
役たちが、に会議をてった。 矢野は力なく子から滑り落ち、にをついたままけなくなっていた。
正彦さんが、森さんの肩を抱きしめた。 「美……よく言った。よく頑張ったな……」 正彦さんの目から、粒の涙が溢れていた。
森さんは夫にを預けながら、静かに息を吐いた。 そして、私の方を見て、さく、もう度だけ会釈をした。
私はく、畳に額を擦り付けるようないで、をげ続けた。 ドアが閉まり、の音がざかっていくまで、顔をげることはできなかった。
な結末は、決してそのですべてが解決したわけではなかった。
査問会の翌から、翠閣には警察と消防の本格な同捜査が入った。 私は支配のデスクをけ渡し、過の経理類、設備投資の稟議、そして現の点検誌のすべてを自ら警察に提した。 連のように警察署の取調に通い、の予算削減の経緯と、防扉の修繕を保留にした判断の誤りを、包み隠さず供述した。
業務過失傷害の容疑で類送検されることは免れなかったが、自首にい形での報示と、災当夜の避難誘導体制の迅速さが考慮され、最終に検察からは起訴猶予処分がされた。
会社からの処分は、厳罰だった。
私は総支配を解任され、役員報酬の返と、格処分を受けた。 だが、解雇にはならなかった。 神崎専務がした辞令は、『別館復旧および全管理専任担当』――肩きも部もない、ただ現のをかぶって復旧作業をめるための、無にい特命ポストだった。
矢野副支配は、事故報告の隠蔽と部への偽証がく見られ、懲戒解雇こそ免れたものの、県のグループ系列のビジネスホテルへの無期限向が決まり、度と戻ることはなかった。
そして、森さんには――。 正式に労災認定がりた。 会社からの特別功労とともに、全額会社負担での期医療補償と、リハビリ休暇が保障された。 さらに、元消防署から、逃げ遅れた齢夫婦を救した功績に対する謝状が贈られた。
方の片隅に、『旅館災、ベテラン女性従業員の転で者ゼロ』というさな見しが躍った、私は、誰もいない別館の焼け跡で、瓦礫を片付けていた。
季節は巡り、初から初の気配が漂い始めたの初め。
災からヶが過ぎていた。 翠閣の本館は、徹底な全設備の総点検と改修事を終え、ようやく部の営業再に漕ぎ着けていた。 全焼した別館の渡り廊は完全に撤され、庭にはしい防壁と、緑の芝が植え直されていた。
私の仕事は、毎朝に勤し、館内のすべての消栓、防扉、避難器具の点検をうことだった。