"目覚めた部下にクビを問われた" 第22話
松永が言葉を失い、を半きにして私を見つめている。
「坂井……お、自分が何を言っているのか分かっているのか?」 神崎の声が、りで震えていた。 「これを警察にせば、おは業務過失傷害の被疑者になるんだぞ! が社の板にを塗るだけでなく、お自のが破滅するんだぞ!」
「っています」 私は逃げることなく、神崎の目を真っ直ぐに見つめ返した。 「、私は京からやってきて、数字の改善ばかりを追い求めた。現の鳴を無し、かけて旅館を守ってきたベテランたちの誇りを踏みにじった。その傲な私のサインひとつが、あの扉を『かずの罠』に変えたんだ」
胸の奥の気傷が激しく痛み、咳が込みげそうになった。 だが、私は拳を握りしめて耐えた。
「設備を放置したのは私の責任だ。全管理を怠ったのも私の責任だ。業務過失傷害だろうが、解任だろうが、刑事告訴だろうが、私はすべてを受け入れる!」 私はテーブルをバンと叩き、松永と矢野をした。 「だが、命がけで客を救いし、のから逃げ遅れたを背負って戻ってきた森主任にを被せることだけは、絶対に許さない! 誰として、彼女のを汚す権利はない!!」
私の声が、井にね返り、静寂のなかに消えていった。
矢野はそのに崩れ落ちるように座り込み、両で顔を覆った。
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松永は類を取り落とし、もはや言葉を紡ぐことすらできなくなっていた。 神崎専務は煙を取りし、今度はをつけないまま、指先でそれを真っつにへし折った。
その凄まじい静寂のなかで。
スッと、ちがる気配がした。
森さんだった。
彼女は子から自らのでちがっていた。 夫の正彦さんが慌てて支えようとしたが、彼女はそのをそっと制した。 痛むはずので、しっかりとを踏み締め、背筋を伸ばしていた。
額の包帯のの瞳は、澄み切っていた。 怯えも、混乱も、そこには微もなかった。
「……森さん」 神崎が、わずかに狼狽した声を漏らした。
森さんは、テーブルのにある焦げた客管理シートを見つめた。 そして、の私のサインが残る稟議を見つめた。
「神崎専務」 森さんの声は、静かだったが、この部の誰の声よりも力く響いた。 「私には、災の夜の記憶はありません。自分がどのようにして客を回り、どうやってお客様をへ押ししたのか……今でも、何ついせません」
彼女は、ゆっくりと線を私に向けた。
「そして、目のにいる坂井支配のことも、やはり分かりません。私の記憶のにある坂井支配は、、私を会議に呼びして『代わりはいくらでもいる』と言い放った、酷で恐ろしいのままです」
私の胸が、ギュッと締め付けられた。 その痛みを、私は黙って受け止めた。
「ですが」 森さんは、テーブルのの焦げたシートを、おしそうに指先で撫でた。 「このシートにかれた跡は、違いなく私のものです。私は、毎このバインダーを持って、翠閣の畳のを歩いてきました。お客様がどんな靴を履いていらっしゃるか、どの部にの悪いお寄りが泊まっていらっしゃるか、すべてこのでき留めてきました」
彼女は顔をげ、神崎と松永を凛と見据えた。
「記憶を失っても、私のが消えたわけではありません。私はあの夜、お客様を見捨てなかった。自分の命を危険に晒してでも、最まで翠閣の客部としての誇りを守り抜いた。……このが、私の魂が、そう叫んでいます」
そして、森さんは私に向かって、く、丁寧にをげた。
「坂井支配」
「……はい」
「のあなたがどんなだったとしても、失われたの私が、あなたと共にこの旅館をて直すを選んだのだとすれば……その私を、今の私は誇りにいます」 森さんの目から、筋の涙が頬を伝い落ちた。 だが、その元には、かすかな、しかし確かな微笑みが浮かんでいた。
「そして今、自らの保を捨てて、私の誇りを守るためにすべてを投げ打ってくれたあなたを……私は、信じます」
息が、止まりそうだった。 界がい涙で歪み、喉の奥が震えた。