"目覚めた部下にクビを問われた" 第19話
午半。営業を止した本館のロビーは、照が落とされ、昼だというのに暗かった。 フロントのカウンターには誰もおらず、自ドアの源も切られている。 から吹き込む川沿いの湿った気が、微かに残る別館の焦げ臭さを撫でるようにして、静まり返った館内に滞留していた。
私は、本館階の会議のにっていた。 ネクタイを締め直し、く息を吐きす。 元には、つの資料を抱えていた。 つは、昨夜事務所のキャビネットから引きずりした、の稟議ファイル。 もうつは、あの焦げたアルミのバインダーから丁寧に抜き取った、耐性の客管理シートの原本だった。
たい樫ののドアを押しけると、内の空気が肌に張り付くようにかった。
部の央に据えられた巨な楕円形の会議テーブル。 その座には、すでに京から到着した本社のが陣取っていた。 央に座るのは、専務取締役の神崎(かんざき)。髪交じりの髪をオールバックに撫で付け、彫りのい顔筋を鉄のように張らせている。 その隣には、法務監査部次の松永が、すでに万のキャップをし、徹な目で元の資料を見つめていた。
テーブルの端には、矢野副支配がさくなって座っていた。 私の姿を認めた瞬、矢野の目がギョッと見かれ、すぐに線が卓へと逃げた。
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昨夜、病で類を引き裂かれた屈辱と、私の告発を恐れる怯えが、その引き攣った横顔にありありと浮かんでいた。
「坂井支配、着席しなさい」 松永が、事務な声で促した。 「ちょうどに、森主任とご主が到着される予定だ。警察の調作成に先ち、本査問会にて当夜の事実関係を最終確定させる。異論はないね」
「ありません」 私は矢野の正面に腰をろし、元のファイルを伏せて置いた。
計の秒針が、カチ、カチと規則正しい音を刻んでいた。 神崎専務は煙を取りしかけたが、皿がないことに気づき、忌々しそうに胸ポケットへ戻した。 「坂井」 く、濁った声だった。 「創業、が社が買収してから。ようやく黒字化の筋がついた矢先に、この祥事だ。元だけでなく、全国の社会面にもさく載った。観協会からも毎のように話が入っている」
「……申し訳ありません」
「おの謝罪など円の価値にもならん」 神崎はややかに言い放った。 「りたいのはつだけだ。この災が、施設の備による組織過失なのか、それとも現の従業員による過失なのか。者であれば、旅館業法に基づく営業止処分は避けられん。本社の株価にも響する。……分かっているな?」
骨なまでの、結論ありきの圧力だった。 組織を守るためなら、誰の首を差ししても構わないという、企業の酷な論理。
かつての私なら、その空気を敏に察し、「最も傷が浅い着点」を提案して、神崎の覚えをめでたくしようとしただろう。 だが今の私には、その言葉のすべてが、ただただ醜悪な異音にしか聞こえなかった。
ノックの音が、回。
ドアが静かにいた。 入ってきたのは、子に乗った森さんと、それを押す夫の正彦さんだった。
内が瞬、静まり返った。 森さんは、病院から借りたのであろう紺のカーディガンを羽織り、膝のにのブランケットを掛けていた。 額の包帯はしいものに替えられていたが、顔の側の擦り傷はまだ々しく、肌は陶器のように蒼だった。 正彦さんは作業着ではなく、着慣れない黒のジャケットを着ていた。その太い腕は、妻の子のグリップを、くなるほどく握りしめられている。
森さんの線が、内をゆっくりと巡った。 神崎の威圧な線、松永の品定めするような鏡の奥の、そして、顔を伏せる矢野。 最に、彼女の目は私を捉えた。
私はちがり、くをげた。 彼女は何も言わなかった。ただ、膝ので組んだ両の指先が、微かに張ったのを私は見逃さなかった。
「森さん、正彦さん、ご労いただき謝します」 松永がちがり、慇懃な礼を執った。 「お怪のところ変恐縮ですが、警察への正式報告の期限が迫っております。