"目覚めた部下にクビを問われた" 第6話
彼女が何も話せないなら、警察は現検証の矛盾を徹底に突いてくる。その、困るのは彼女自であり、あなたですよ」
の男は、会釈すら残さずに面談をてった。 バタン、とドアが閉まる音が、まるで棺桶の蓋を閉じる音のようにく響いた。
夕暮れ、私は再び階の病のにっていた。
に持った袋のには、旅館の事務所から持ってきた冊のアルバムが入っていた。 昨の、旅館の稼働率回復を祝って、スタッフ全員で庭で撮った集写真。 その央で、私と森さんは並んで、し照れ臭そうに笑っている。 スマートフォンの画面には、彼女から送られてきた無数の業務連絡と、折混ざる「支配、たまにはちゃんと寝てくださいね」という気遣いのメッセージが残っている。
これを見せれば。 私たちがこので築きげてきた関係を、つひとつ丁寧に説すれば。 彼女の記憶は戻らないまでも、「自分は決して会社から見捨てられていない」「支配は敵ではない」と、信じてもらえないだろうか。
そして、あの災の夜、彼女が本当は何をしたのか。 彼女自の言葉を、引きすことができるのではないか。
ノックをしようと、をげた。 だが、そのは空で止まった。
病のドアには、さなガラス窓が嵌め込まれている。
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そこから、の様子が伺えた。
正彦さんは席をしているようだった。 森さんは、ベッドのに座っていた。 夕暮れの暗いのなかで、彼女は自分の両をじっと見つめていた。
そのは、の清掃作業と配膳で節くれち、指先は荒れていた。 彼女は、震えるの指で、の平をなぞっていた。 そして、ポロポロと、粒の涙をシーツのにこぼしていたのだ。
声をさずに、肩を震わせて泣いていた。
「……どうして……」
微かに、彼女の呟きがドアの隙から漏れ聞こえたような気がした。
「私……何か、取り返しのつかないことを……しちゃったの……? 支配にあんな顔をさせて……私、何を……」
私は息を止めた。 胸が、張り裂けそうだった。
彼女は、自分を責めているのだ。 なぜ自分が病院のベッドにいるのかも分からず、 なぜ全が痛むのかも分からず、 ただ目のに現れた「自分を解雇しようとした支配」の、苦渋に満ちた厳しい顔を見て―― 自分が何かな過ちを犯したから、こんなことになっているのだと、怯えているのだ。
私のポケットのには、松永から渡されたあの卑劣な『事実確認』が入っている。 そしてには、彼女が「らないはずの」を無理やり押し付けるための写真が入っている。
どちらも、暴力だ。
彼女の記憶の空に付け込んで罪を擦り付けようとする本社の酷さも。
「私たちは仲が良かったんだ」と証して、自分の罪悪を消しりたい私の焦りも。 今の森美にとっては、等しく残酷な、の侵略でしかない。
病のの森さんが、ふと顔をげた。 線が、ドアのガラス窓に向く。
目がった。
彼女の瞳に、瞬で再びあの恐怖のがった。 涙を拭うことすら忘れ、彼女はシーツを握りしめてをばらせた。
私は、ノックすることができなかった。
彼女の失われたを、が勝に埋めることなどできない。 彼女が持っていない信頼を、過のを盾にして求することなど、決して許されないのだ。
私は、握りしめていたアルバムの袋を、そっと元に置いた。 そして、ドアノブから静かにをした。
逃げるためではない。 これ以、彼女の尊厳を踏みにじらないために。
だが、は残されていない。 の朝には、警察が来る。そして松永たち本社が、この無防備な女性を屠殺へ引きずりそうとを研いでいる。
災の夜、あの防扉で本当は何が起きたのか。 彼女が守ろうとしたものは何だったのか。
それを証できるは、記憶を失った彼女ではない。 あの夜、彼女にすべてを背負わせてき残ってしまった――この私しかいないのだ。
私は背筋を伸ばし、夕に染まる病院のい廊を、に向かって歩きした。
喉の奥の痛みが、今はただ、消してはならないりののようにかった。
翌朝、私は徹夜のをたいで洗い流し、再び病院へと向かっていた。