"偽りの仕送りと緑の通帳" 第18話
優しいこの子にとって、実の祖母が孤独の底で朽ち果てていくかもしれないという現実は、自業自得だと分かっていても、胸を締め付ける荷になっていたのだ。
だが、私自は義母の様子を見にく気など毛なかった。
恭子さんに尋ねてみても、「所のから元気で暮らしているとは聞いてるけど、連絡は取ってないわ」とのことだった。何か命に関わるような事態になれば、警察や民委員から連絡が入るだろう。そうって、放置していたのだ。
そんなある、いもよらない所で、運命の歯が再びきすこととなった。
奈々が勤務している特別養護老ホームでは、数週に度、域民に向けた「域交流会」が催されていた。
施設の部を域に放し、隣の齢者たちにレクリエーションやお茶会を楽しんでもらい、孤を防ぐための催しだった。腰の悪い域の齢者も、送迎バスを利用して気軽に参加できるシステムになっていた。
そして――その交流会に、なんと義母の君代が、押しを押してで参加していたのだという。
仕事にその姿を見かけた奈々は、底驚いたそうだ。
もともとプライドがく、社交でもない義母が、わざわざ勢の見らぬが集まる所に顔をすなど、今までは絶対に考えられないことだったからだ。
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誰からも相にされなくなった孤独に耐えかねて、藁にもすがるいでを運んだのだろう。
案の定、偏屈で傲な性格が災いしてか、の齢者たちの輪にもうまく溶け込めず、君代はホールの番隅の子に座り、ぽつんと孤していたのだという。
そんな義母の目に留まったのが、施設に期入居しているの男性だった。
その男性は、かつて名学で文学部の教授を務めていたという、代半ばの穏やかなおじいさんだった。
い内障を患っており、力はほとんど失われていたが、それでも毎のように分い本を放さないだった。当たりの良い窓際の特等席に子を移させ、虫鏡を使って文字文字をおしそうに追いながら、通りかかる施設の職員たちに、いつも仏様のような温かい笑顔を向けてくれるのだという。
「本当に、とっても素敵ななんだよ」
奈々はその元教授のことが好きで、仕事のにを見つけては、よく声をかけていた。
ある、奈々が「先、今も難しそうな本を読んでいらっしゃるんですね」と声をかけると、元教授はゆっくりと顔をげ、ほとんど見えない目を細めて、奈々の顔をじっくりと見つめた。
そうして相の輪郭を確かめるのが、このの優しい癖だった。
「……ああ、奈々さんでしたか。
こんにちは」
奈々だと分かると、元教授の顔にしわくちゃの温かい笑みが広がった。
そして、自分が読んでいる本の表を指先でなぞりながら、その本にかれている哲学やの教訓について、穏やかで分かりやすい言葉で語って聞かせてくれるのだ。元教授の話はどれも教養とい洞察に満ちており、若者である奈々のにもく染み渡るものばかりだった。
『この本にはね、がの最にに入れるべき、本当の宝物についていてあるんですよ』
元教授のその言葉を聞いた瞬、奈々の脳裏に、ホールの隅で寂しそうに俯いている祖母の姿が浮かんだ。
(この先のお話を……おばあちゃんにも、聞いてほしい)
奈々は急いでホールの隅へ向かい、子の背もたれに寄りかかっていた君代の元へと駆け寄った。
「おばあちゃん。ちょっと、お話ししてほしいがいるの」
「……何よ、急に」
君代は審そうに眉をひそめたが、以のような刺々しい攻撃性はすっかり失われていた。何ヶもの孤独な活のせいで、体は回りさく痩せ細り、目元の鋭さも抜け落ちていた。
奈々は祖母の骨張ったを優しく引き、窓際の元教授の席へと案内した。
「先、私の祖母なんです。しだけ、お話し相になっていただけませんか?」
元教授はく微笑み、向かい側の子をで示した。
「ええ、もちろんですよ。どうぞ、お掛けになってください」