"偽りの仕送りと緑の通帳" 第13話
の空気をませようとする娘の気遣いだった。
奈々の姿が台所へ消えたのを見届け、君代は待ってましたとばかりにをいた。
「あのねぇ、浩! あんたの奥さんのことなんだけどねぇ!」
いきなりの名指しでの攻撃に、浩は骨に顔をしかめ、両をげてを引いた。
「なんだよ母さん、急に藪から棒に。せっかくの休に呼びしておいて、俺を巻き込むなよ」
けない声をげる息子に対し、君代はさらにヒステリックに声を張りげた。
「巻き込むなじゃないわよ! 私がが悪くて困ってるから、の続きをしてきてってお伝いをお願いしてるのに、この真美さんは『忙しい、忙しい』って言って、何ヶもらん顔して逃げ回ってるんだよ! 姑の頼みも聞けないような役たずの嫁、どういう教育をしてるんだい!?」
唾をばして鳴り散らす母親を、浩はややかな目で見つめていた。
「……で? それがどうしたんだよ。真美だって事やら何やらで忙しいんだろ」
「だからね! あんたが今すぐ、私の通帳を持ってへってきなさいって言ってんのよ! あんたなら、ATMで記帳くらいできるだろうが!」
君代は元のテーブルのに、季の入った緑の通帳をバシリと叩きつけた。
記帳。
その単語がた瞬、浩は私の顔をチラリと見た。
広告
通帳を械に入れれば、毎振り込まれているはずの万円が、円たりとも入されていないというかぬ証拠がのに晒される。義母はそれを確認し、私たちを棒や詐欺師として糾弾し、座させて謝罪させようという腹積もりなのだ。
私は浩と線をわせることなく、静かにを伸ばしてテーブルのの通帳を取りげた。
そして、そのまま夫ののひらへと押し渡した。
「……浩。お母さんがわざわざこうしておっしゃっているんだから、って記帳してきてあげて。よろしくね」
私の迷いのない声と真摯な差しを受け、浩はさく息を呑んだ。
そして、腹を括ったように力く頷いた。
「……ああ。分かった、ってくるよ」
浩は通帳をポケットにねじ込むと、度も義母を振り返ることなく、に玄関をていった。
バタン、と玄関の引き戸が閉まる音が響く。
部のに、再び針の筵のような静寂が訪れた。
「お待たせしました。茶でよかったかな? おばあちゃんには、温かい湯を淹れてきたよ」
台所から戻ってきた奈々が、お盆に乗せた湯呑みを丁寧に配り始めた。
私と恭子さんのには、りいアールグレイの茶。そして義母のには、湯気をてる湯呑みがコトリと置かれた。
「ありがとう、奈々ちゃん。奈々ちゃんの淹れてくれるお茶って、いつも本当に美しくてホッとするわぁ」
恭子さんがカップを受け取り、からの笑顔を浮かべて奈々に微笑みかけた。奈々も嬉しそうに目元を緩め、「よかったです」とさく会釈する。
しかし――目のに湯をされた君代は、湯呑みに触れようともせず、フンと顔を背けて吐き捨てた。
「……呑気にお茶なんてんでられるのも、今のうちだけよ」
奈々の遣いすら顧だにせず、ただ悪を撒き散らす義母。
奈々は居たたまれなさそうに私の隣に腰をろし、さくを縮めた。
私は何も言わず、差しされた温かい茶を静かにへと運んだ。恭子さんもまた、徹な静けさを保ったままカップを傾けている。
この空の空気をぶち壊しているのは、いつだってこの義母だけだった。
それから約分。
ガラガラと玄関の引き戸がき、靴を脱ぐ音が聞こえてきた。
居の襖がき、浩が戻ってきた。
その表を目見た瞬、私にはすべてが伝わった。
夫の顔には、これまでの迷いや母親への恐れなど微もなく、すべてをやり遂げて吹っ切れた男の、徹な覚悟だけが宿っていた。
「……浩! 遅かったじゃないかい!」
君代は待ちきれないといった様子でを乗りした。
「ほら、通帳を見せなさい! ちゃんと記帳してきたんだろうね!?」
浩は無言のまま、印字されたばかりの通帳をテーブルのへと滑らせた。
君代は奪い取るように通帳を掴み、老鏡を先に引っ掛けてページをめくった。