"偽りの仕送りと緑の通帳" 第5話
私は急須に茶葉を入れ、湯呑みに注いだ温かい緑茶とお茶請けの菓子盆を盆に乗せ、居へと運んだ。
「お母さん、恭子さん、お茶が入りましたよ」
コトリとテーブルのに湯呑みを配る。
すると、君代は私が差ししたお茶を当たりのようににとり、ズズッと音をてて啜りながら、信じがたい言葉を平然と言い放ったのだ。
「……そういえば、無収入の嫁と、卒の無能な孫は、今はいったいどうしたのかしらねぇ?」
そのにいた全員の呼吸が止まった。
私のすぐ隣でお茶をもうとしていた義姉の恭子さんが、あまりの言葉にギョッとして目を丸くし、持っていた湯呑みを宙で止めたまま固まっている。
無収入の嫁と、卒の孫。
どう考えても、今目のでお茶を配っている私と、私のろに控えている奈々のことを指しているのはだった。本が目のにいるというのに、まるでそこにしない霊であるかのように扱い、嘲笑っているのだ。
義姉の恭子さんは、顔から血の気を引かせ、いたが塞がらない様子で義母と私を交互に見つめていた。何か言わなければとったのだろうが、に反応して義母を否定すれば、今度は自分に矛先が向くかもしれない。あるいは、相槌を打てば義母の暴言に同したことになってしまう。
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恭子さんは困惑と居の悪さに耐えかねたように、ぎゅっと唇を結んでをつぐむしかなかった。
「まったく、本当に失礼なたちよねぇ。せっかく姑がに呼んであげているっていうのに、まともな産つ気の利いたものも持ってこられないんだから」
君代はそう吐き捨てると、私がテーブルの央に置いた菓子盆へと無造作にを伸ばした。
そして、私が昨の夕方、しでも義母のにうようにとくの百貨までを運んで買ってきた老舗の級菓子を、当然のような顔をしてのへ放り込んだのだ。
(そのお菓子は、私がをげて買ってきたものよ……!)
私の胸の奥で、ドス黒いりがふつふつと湧きがった。
の好を散々踏みにじり、罵倒を浴びせかけておきながら、その相が買ってきた菓子だけは卑しく貪りう。その浅ましさに、い嫌悪を抱かずにはいられなかった。
私がを決して、義母の向かい側の畳に正座すると、君代はお茶でを湿らせ、の悪い笑みを浮かべて再びをいた。
「無収入の嫁と卒の孫なんて、もう赤のと同じよねぇ。挨拶もまともにできない、返事のつも返せないんだから。きてる価値もないんじゃないかしら?」
ケラケラと、乾いた甲い笑い声が部のに響き渡る。
隣に座る義姉の恭子さんは、の置き所がないというように肩をすくめ、さくなって畳の目をじっと見つめていた。
私はふと、自分の背を振り返った。
――そこに、夫の浩の姿はなかった。
(どうして……どうしてこのに、浩がいないの?)
私の胸を、たい虚しさが刺し貫いた。
今の訪問は、義母から「事な話があるから族で来なさい」と呼びされたものだった。それなのに、夫の浩は「ちょっと仕事の話が入ったから」と言い訳をして、駅の喫茶に入ったきり、以も戻ってきていないのだ。
なぜ、実の息子である浩がおらず、嫁である私と、孫である奈々だけが、この理尽な針の筵に座らされているのか。誰の実なのか。誰の母親なのか。
こんな屈辱に耐えてまで、このにを運ぶが本当にあるのだろうか。
ふと横を見ると、私の隣に座っていた奈々が、両を膝のでぎゅっと握りしめ、青ざめた顔で黙り込んでいた。その華奢な指先が、刻みに、痛々しいほど激しく震えている。
――この子を、これ以傷つけさせてはならない。
娘の震えるを見た瞬、私のので、徹で揺るぎない覚悟がカチリと音をてて定まった。
私と娘が、これまでどれほど義母の勝な悪に振り回され、を削り取られてきたか。もう限界だった。
これ以の分秒たりとも、この条理を耐え忍ぶつもりはなかった。
義実でのあの屈辱なから数、自宅のリビングで事をしていた私のスマートフォンが、けたたましい着信音を鳴らした。