"偽りの仕送りと緑の通帳" 第3話
私は台所の片隅で、計簿の数字をに何度もを抱え、涙を流した。
そしてある晩、リビングに奈々を呼び、私は震える声でをげたのだ。
「奈々……本当に、ごめんね。お父さんの会社の状況がどうしても厳しくて……学へは、かせてあげられないの」
自分の無力さに胸が張り裂けそうだった。母親として、娘の学びたいという純粋なを奪ってしまう。その罪悪で、私は顔をげることすらできなかった。
しかし、奈々は違った。
私の目のに座っていた娘は、しも取り乱すことなく、ふわりと穏やかな笑みを浮かべたのだ。そして、私の震えるを自分の両で優しく包み込んでくれた。
「お母さん、顔をげてよ。うん、丈夫だよ。なんとかなるもん。私、学にくだけがじゃないってってるし。ちゃんと自分で働いて、自分のおできていけるようになるから。だから、お母さんが謝ることなんて何つないよ」
何でもないことのようにあっけらかんと笑い、奈々はその過酷な現実を受け入れてくれた。
その笑顔の裏で、どれほどの悔しさとしみを押し殺していたのか。母親である私には痛いほど分かっていた。だからこそ、娘のその健気な優しさが、私の胸を激しく締め付けた。
を卒業した奈々は、すぐに就職活を始めた。
そして選んだのが、がから自転で通える距にある、元の民の特別養護老ホームだった。
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もともとの世話をすることが好きで、誰に対しても分け隔てなく温かい笑顔を向けられる奈々にとって、介護の仕事は職だったのかもしれない。
入社したばかりの頃は、慣れないシーツ交換や入浴介助、オムツの交換などでや腰を痛め、夜遅くに帰宅してはのように眠り込むもかった。それでも、奈々は度として音を吐かなかった。
数ヶもすると、真面目で細やかな気配りができる奈々は、施設の入居者たちから絶な信頼と気を得るようになっていた。
「奈々ちゃんが来てくれると、部のがパッとるくなるよ」
「まるで本物の使のような優しい子だねぇ」
面会に来た族や、施設のベテラン職員たちからもそう言って褒められているのだと、同僚の護師さんから嬉しそうに聞かされたこともあった。
だが――そんなに誇りを持って懸命に働いている孫の姿を、義母の君代は徹底に見し、嘲笑の対象にしたのだ。
法事や正の集まりで顔をわせるたび、君代は親戚同ので声で言い放った。
「まったく、うちの次男のには、無能ない虫の嫁と、卒の無能な孫しかいないのねぇ! 恥ずかしくて所にも顔向けできないわ!」
カツンと、周囲の空気が凍りつく音が聞こえるようだった。
奈々はただ唇を噛み締め、膝ののスカートの裾をぎゅっと握りしめて耐えていた。
かつての私なら、ここでもの空気を乱さないために俯いていたかもしれない。だが、自分の娘がこれほどまでに理尽に傷つけられているのを見て、黙っていられるはずがなかった。
「お母さん、そんな言い方はやめてください! 奈々は毎、自分の仕事に誇りを持って、懸命に働いているんです!」
私が語気をめて抗議するようになったのは、ここ最のことだった。
、義母の差別な態度に耐え続けてきたが、娘のまで踏みにじられることだけは、母親としてどうしても許せなかった。私の堪忍袋の緒は、とうに限界を迎えていたのだ。
しかし、何も傲にきてきた義母のに、私の抗議など届くはずもなかった。
君代は私の言葉など最初から聞こえていないかのように、ふんっとを膨らませて先で笑いばすだけだった。
「あら、図を突かれたからってキーキー喚かないでちょうだい。事実は事実じゃないの。体ねぇ、真美さん、あなた自が無収入の居候なんだから、しは私に対して縮こまって恐縮しなさいよね。誰のおかげで根のあるにめて、ご飯がべられているとってるの? うちの息子が汗垂らして働いているおかげでしょうが」
それは、専業主婦というにある私にとって、最も反論しにくい痛烈な言葉だった。