"祖父が私に遺した最後の拒否権" 第24話
鮮やかな朱の円が、の繊維にしっかりと刻み込まれた。
「――確かに、受領いたしました」 松永が類を丁に受け取り、く礼した。 「源造先の遺言条項、これをもって完全に成就いたしました。咲さん……見事なブレーキでございましたね」
松永の鏡の奥の目が、温かく細められた。
私はさく息を吐きし、窓のを見げた。 くに見える肌が、午のを浴びて、黄に輝いていた。
祖父が遺したは、半分以が売却される。 だが、あの老いた々は伐り倒されず、になれば再びいを咲かせ、には赤い実を結ぶだろう。 父はその々ので、再びにまみれてきていく。 母は来週、弘の病院に入院して術を受ける。 そして遥は、自分のでしいを探すために、歩き始める。
祖父の答えを、私は何つ曲げなかった。 ただ、祖父が用してくれた「度ち止まるための」を、最まで使い切っただけだ。
***
週。
に入り、青森の々には初の便りが届き始めていた。 私は再び休暇を取り、週末を利用して老を訪れていた。
母の術は無事に成功し、経過は極めて良好だった。 病で会った母は、まだ歩器を使いながらも、「痛くないんだよ、咲。夜、ぐっすり眠れるんだ」と、何ぶりか分からないほどのるい笑顔を見せてくれた。
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遥は、隣のの商業施設にあるセレクトショップの契約社員として採用が決まり、来から暮らしを始めることになったという。 修平とは、完全に終わった。 だが、駅まで私を送ってくれた遥の横顔には、もうあの夜の絶望のはなかった。 自分で選び、自分で歩きすの、清々しいが宿っていた。
幹線に乗る、私はで、あの果園の丘へと登った。
急な坂の途、型のバックホーが入り、放置されていた雑や葛の蔓が綺麗に刈り払われていた。 だが、成田さんが言っていた通り、齢の玉と国の古は、本も傷つけられることなく、力く枝を広げていた。
その々ので、紺の真しい作業着を着て、脚に登っている男の姿があった。 父・健だった。
腰に剪定鋏を差し、入れのき届いたノコギリで、枯れ枝を丁寧に切り落としている。 その元を、若いワイナリーのスタッフがから真剣な差しで見つめていた。
「佐伯さん、この枝の落とし方でってますか?」 「ああ、それでいい。だが、切りにはちゃんと保護剤を塗っとけよ。このは寄りだからな、邪をひいちまう」
父の声には、あの苛ちも、惨めな焦りもなかった。 何もと共にきてきた男の、静かな自信と落ち着きが戻っていた。
私が音をててづくと、父はを止め、脚のから私を見ろした。
「……咲か」
「お父さん」
父は脚からゆっくりとりてきた。 靴についたを軽く払い、首に巻いたタオルで額の汗を拭う。 に会ったよりも、顔がずっと引き締まって見えた。
「成田さんから聞いたよ。お父さんの剪定の腕、すごく頼りにしてるって」
「……あいつは、がいからな」 父は照れ隠しのように線を逸らし、元の剪定鋏を弄んだ。 だが、その元が微かに緩んでいるのを、私は見逃さなかった。
が吹き抜け、枯れ残ったリンゴの葉がカサカサと音をてる。 たいのに、微かに混じる腐葉と、乾いた肌の匂い。 かつてあれほど息苦しく、逃げしたくてたまらなかった故郷の匂いが、今は議と、私の肺をく満たしていった。
沈黙が流れた。 だが、以のような、棘のある苦しい沈黙ではなかった。
やがて、父はく息を吸い込み、私の目をまっすぐに見つめた。
「咲」
「うん」
「……この、悪かったな」
父の声は、く、かすかに震えていた。
「おがをた、俺は鳴り散らして……京にかまけて親を捨てる気かって、罵った。だが……本当は、怖かったんだ。おがどんどんくへって、自分の力できていくのが……けない俺を見透かされているようで、怖かったんだよ」
父のきな、節くれだったが、作業着の太ももをギュッと握りしめる。
「おは、で戦ってきたんだな。京のたいので、誰にも頼らずに……ちゃんと、自分のでってきたんだな」