"祖父が私に遺した最後の拒否権" 第22話
遥がそのに崩れ落ち、声をげて泣きじゃくった。 父は振りげた拳をろすこともできず、ただ虚ろな目で娘を見つめたまま、ち尽くしていた。
「……お父さん」
私は静かに、バッグのから通のしい契約案を取りした。 そして、その横に、もう枚の古い茶封筒を並べた。
「津たちの話は消えたけれど。の買いなら、見つけてきたわ」
父の目が、ピクリといた。 母も涙を拭い、顔をげる。
「隣町の、神テロワール・ワイナリーよ。代表の成田さんが、祖父の植えた玉の古をく評価してくれた。向きの斜面、果園の割を、千百万円で買い取ってくれる」
「せ……千百……?」 父の声が擦った。 「りない……! 千百万から半分くも減ってるじゃないか! そんなじゃ、農協の借百万を返して、母さんの術費百万を払ったら、元にほとんど残らんぞ!」
「残るわよ。百万円残る」 私は静に返した。 「それに、残りの割――町に面した平坦なは、今朝、町役の都計画課に掛けってきた。あそこは学の通学の横で、見通しが悪くて事故が発していた所よ。町が防災緑と通学待エリアとして、百万円で公買い取りをしてくれる内諾をもらったわ」
「町が……百万円で?」 母が震える声で尋ねる。
「ええ。わせれば、千百万円よ。
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満額の千百万よりはない。けれど、壌検査の罠も、からの法な請求も切ない、完全にクリーンな現よ。借を全部清算して、お母さんの術と半分のリハビリ費用を払っても、佐伯の元には、確実に百万円の自己資が残る」
父の喉が、ゴクリと鳴った。 りのが急速にめ、現実な計算がを駆け巡っているのが分かった。
「さらに……成田さんから、もうつ提案があるの」
私は父の目を見つめた。
「成田さんのワイナリーは、あの齢の古を管理できる熟練の果農を探してる。お父さんを、契約栽培の管理主任として雇用したいって。万円、社会保険完備で、契約。お父さんが望めば、更も能よ」
父の顔から、完全に表が抜け落ちた。
「俺を……雇う……?」
「そうよ。お父さんは、おじいちゃんが遺したを、切らずに守ることができる。雇われの分かもしれないけれど、毎決まった料が入って、まみれになって働ける。……お父さん、本当は果園を放したくなかったんでしょう? トラックの夜勤なんかじゃなくて、リンゴのを見ていたかったんでしょう?」
父の唇が、刻みに震え始めた。 その目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。
「俺は……俺は……」
「でもね、お父さん。この契約を結ぶに、どうしても読んでほしいものがあるの」
私は、座卓のに置いた茶封筒を、父のへと押しした。 祖父・源造の跡で、『咲へ』とかれた、あのだ。
「おじいちゃんが、私に宛てて遺したよ。……松永先から受け取ったわ」
父は怯えるように、その封筒を見つめた。 触れることすら恐ろしい毒薬を見るかのように、指先が宙を彷徨う。
「読みなさいよ、お父さん」 私の声は、く、かった。 「おじいちゃんが、どうして私に『拒否権』を遺したのか。どうして、何も言わずにあの果園を守り続けてきたのか。その理由が、全部いてあるから」
父は震えるで便箋を引きし、いた。 最初のを目にした瞬、父の息がヒッと止まった。
『、健が騙されて作った千万の借を、俺がを売って埋めた』
父の目が、見かれた。 顔が、青から気へと変わっていく。
『あいつは、子供の頃から体がく、領が悪く、俺の顔ばかり伺って育ったけない息子だ。 あいつをあんな歪んだ男にしてしまったのは、俺の傲さのせいだ。 だから俺は、あいつの恥を隠した。 だが、健のには、ブレーキがついてねぇんだ』
父の指が激しく震え、便箋がカサカサと音をてる。 母が横から覗き込み、息を呑んで元をで塞いだ。 母も、らなかったのだ。、夫が何をしでかし、義父がそれをどうやって揉み消したのかを。
『崖っぷちでハンドルを握っている連は、全員のが恐怖で震えている。 が震えている奴に、ブレーキは踏めん。