"祖父が私に遺した最後の拒否権" 第18話
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嫌な予を胸に押し込めながら、私はハンズフリー通話のボタンを押した。
「……はい、佐伯です」
『咲さんですか』 松永の声は、いつになく切迫していた。 『今、どちらにおられますか?』
「隣町のワイナリーにいました。今、実へ戻る途です」
『すぐに……できるだけ急いで、駅の私の事務所へ寄っていただけますか』
「何かあったんですか?」
松永は瞬、言葉を濁した。 そして、々しい調で告げた。
『源造先から、もうつだけ、お預かりしていたものがあります』
「もうつ……?」
『ええ。「咲が本当の壁にぶつかり、どうにもならなくなっただけ渡してくれ」と厳命されていた、親展の封です。……先は、の“あの事件”の真相を、に残しておられました』
背筋に、氷のようなものがった。
「……父の、借の件ですか?」
『鈴さんから、枠は聞かれたようですね。ですが……先がに遺されたのは、それだけではありません。なぜ先が、咲さんにあの“拒否権”を託したのか。その本当の理由が、かれています』
話が切れた。 私はアクセルを踏み込んだ。 フロントガラスの向こう、がった空から、突き刺すようなの陽が差し始めていた。
***
司法士事務所の相談は、昨と同じ苦しい静けさに包まれていた。 だが、机の向こうに父や津の姿はない。 松永が、机の央に置かれた、茶い封筒を見つめていた。
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封筒の表には、祖父の跡で、震えるような文字がっていた。
『咲へ。おがで泣いているにけろ』
私は震える指先で、封筒の糊付けを剥がした。 からてきたのは、便箋枚にびっしりとかれた、祖父のだった。 黒いインクの文字は、所々がかすれ、祖父のり切ったの震えを々しく伝えていた。
『咲。 これを読んでいるということは、健がまた、穴を掘ったな。 そしておが、を被ってち往しているんだろう。 苦労をかけて、本当にすまない。
、健が騙されて作った千万の借を、俺がを売って埋めた。 あの、俺は健を殴りばして、勘当するべきだったのかもしれん。 だが、俺にはできなかった。 あいつは、子供の頃から体がく、領が悪く、俺の顔ばかり伺って育ったけない息子だ。 俺が厳しく育てすぎたせいで、あいつは「親父に認められたい」「発逆転して親父を見返したい」という焦りばかりを膨らませてしまった。 あいつをあんな歪んだ男にしてしまったのは、俺の傲さのせいだ。
だから俺は、あいつの恥を隠した。 あいつが度とちがれなくなるのを恐れて、所にも、族にも嘘をついた。 だが、それが違いだった。
健は、自分が招いた獄のさをらん。 喉元を過ぎればさを忘れ、また同じように、追いつめられれば「番っ取りくに入る」
に目を奪われる。 あいつのには、ブレーキがついてねぇんだ。
咲。 おがの、京へくとったのことを、俺は昨のように覚えている。 健は鳴り散らしたが、俺は嬉しかった。 おの目のに、この腐りかけたにしがみつかず、自分ので荒野を歩いていこうとするいを見たからだ。
おを京へかせたのは、勘当したからじゃない。 おを、この沼から逃がしてやりたかったからだ。 自分の力で飯をい、の顔を伺わずにきていける本物のさを、につけてほしかったからだ。
だが、最につだけ、残酷な役目を押し付けることを許してくれ。
俺がねば、健は必ずまた、甘い罠にびつく。 遥もまだ若い。目先の幸せ欲しさに、父親の暴を止められん。 あのに残ったは、全員が溺れかけている。 溺れている奴に、誰かを救うことなどできん。 崖っぷちでハンドルを握っている連は、全員のが恐怖で震えているんだ。
が震えている奴に、ブレーキは踏めん。 踏んだつもりで、元が狂って崖へ突っ込むだけだ。
咲。 おだけだ。 佐伯ので唯、自分の力で飯をい、あののに円もすがる必のない、経済に自したは、おしかいない。
おのだけが、震えていない。
おが踏むブレーキは、健にとっては憎たらしく、遥にとっては残酷に見えるだろう。