"祖父が私に遺した最後の拒否権" 第17話
ページを繰るが、ある箇所で止まる。
「……よくまとまっていますね。京の商社にお勤めなんですか。なるほど、数字の根拠が極めて確だ」
成田は顔をげ、静かに言った。
「源造さんには、の、変お世話になりました。あの果園にある玉の古……あれは宝ですよ。根がく張り、のミネラルを吸いげているから、今のしい矮化栽培のリンゴにはせない、信じられないほど力い酸と苦がある。あの果汁でなければ作れないシードルがあるんです」
胸の奥に、筋のが射し込むのをじた。
「では……買い取っていただける能性があるということでしょうか?」
しかし、成田の表はすぐに曇った。 彼は腕を組み、苦渋に満ちた息を吐きした。
「……買い取りたいのは々です。ですが、佐伯さん。率直に申しげます。うちのようなちげもないクラフトワイナリーに、あの広なを全額キャッシュで買い取る体力はありません」
喉の奥が、ヒヤリとたくなった。
「うちは、自社農園の拡と醸造設備の増設で、からの融資枠をすでに使い切っています」 成田は元の卓を叩いた。 「うちがせる限界は、果が植えられている向きの斜面――全体の約割の部分の買い取りです。額にして、千百万円。これが、今の弊社が用できる絶対の井です」
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千百万円。
その数字を聞いた瞬、目のが暗くなった。 りない。 それでは、あまりにもりなすぎる。
母の術とリハビリ費用で約百万円。 父が果園の維持のために農協や親戚から借り入れている当座の借の返済で、約百万円。 それらを清算したら、残るのは百万円程度だ。 父と母の今の活費を考えれば、遥の居のための資など、円も残らない。
「さらに……」 成田は申し訳なさそうに言葉をねた。 「残りの割――町に面した平坦な入り部分のは、うちでは買い取れません。あそこは傾斜の果と違って、シードル用の栽培には適さない。もしそこも処分されたいなら、町役に掛けって、防災緑や遊歩用として寄付するか、束文で買い取ってもらうしかはないでしょうね」
「そう……ですか」
私の指先が、膝ので微かに震えた。
甘かったのだ。 京のビジネスの論理で、綺麗に類をまとめれば、すべてが都よく解決するといがっていた。 現実は酷だ。 あの物流会社の「千百万円」という数字がいかに毒入りの林檎だったとしても、族にとっては、その巨額の数字だけが唯の希望に見えてしまうのも無理はなかったのだ。
「佐伯さん」 成田が、静かに私を呼び止めた。 「力になれず、申し訳ない。ただ……もし、もし話がむようなら、もうつだけ提案があります。
うちは古の管理ができる熟練の農を探しています。もしお父がご健で、農作業ができる状態なら……うちの契約栽培管理員として、万円の固定で雇用させていただく用があります」
「父を……雇用?」
「ええ。源造さんの技術をで見てこられた方なら、古の剪定や病害管理を任せられる。を売って終わり、ではなく、お父の仕事と収入を確保する形なら、うちとしても願ったり叶ったりなんです」
その提案は、確かに温かいものだった。 だが、今の狂乱状態にある父が、「代千百万円と、雇われの分」という条件を受け入れるだろうか? 「俺は主だ」「千万のをかす男だ」とい込み、津に縋り付いていた父が、自分のプライドをへし折られるような条件に首を縦に振るとは、到底えなかった。
い取りでワイナリーをにした。 をらせながら、計を見る。午。 京のオフィスからは、容赦なく業務連絡のチャットが通欄を埋めていく。 『佐伯さん、本の定例ミーティングの資料はどこにありますか?』 『クライアントから至急の修正依頼が入っています』
現実が、私を京へ引き戻そうと腕を引っ張っている。 私には、がない。 今にこの沼に決着をつけなければ、私は仕事も失い、族も失う。
その、スマートフォンの着信音が内に鳴り響いた。
画面に表示された名は、「松永司法士」