"祖父が私に遺した最後の拒否権" 第9話
『農協の鈴に相談。坪単価の見積もりを取る。 健にこのを遺せば、あいつは必ず目のの借に追われて、最初の買いにびつく。 く買ってくれるなら誰でもいいと、契約も読まずに判を押すだろう。 あの男は、昔からそうだ。怖くなると目を瞑ってアクセルを踏む。 だが、売るにしても、順を違えれば佐伯のは終わる。 咲。おがこれを読んでいるということは、健が墓穴を掘りかけたな。 度、鈴のところへけ』
息が止まりそうになった。
祖父は、すべてを見通していた。 父が易な売却にることも、その契約が危険を孕んでいることも。 そして、私を指名したのは、私をこのに縛り付けるためでも、父への嫌がらせでもなく―― 「契約を読まずにびつく父」のに、物理な障害物を置くためだったのだ。
私は誌を胸に抱きしめ、をびした。
***
がまる、私は麓の集落にある、元・農協理事の鈴清司の自宅を訪ねた。 鈴は代半ば、祖父とは学からの幼馴染で、この域の果農のまとめ役を務めてきた物だ。
突然ずぶ濡れで現れた私を、鈴は驚きもせず、温かいほうじ茶と乾いたタオルで迎え入れてくれた。
「……咲ちゃんか。きくなったな。京で頑張ってるって、源造から々聞いてたよ」
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鈴は、居の油ストーブのに置かれた薬缶の湯気を眺めながら、穏やかに言った。
私はタオルで髪を拭きながら、単刀直入に切りした。
「鈴さん。おじいちゃんの誌を読みました。鈴さんにの相談をしていたって……おじいちゃんは、あのを売ることに反対だったんじゃないんですか?」
鈴は茶をすすり、さく笑って首を横に振った。
「反対なわけがあるかい。源造はな、誰よりもく『もう果園は畳むべきだ』って言ってただよ」
「え……?」
予もしなかった言葉に、私は目を見いた。
「だって……おじいちゃんは、涯をかけてあの果園を墾したんでしょう? 着だって、誰よりもあったはずなのに……」
「着があるからこそだよ」 鈴の目が、しだけ細められた。 「農業ってのはな、代と添い寝しなきゃならん仕事だ。継ぎがいねえ、温化でリンゴのが落ちる、薬代はがる。そんなもん、だけで守れるもんじゃない。源造は癖のように言ってたよ。『なんてのは、きてるをわせるための具だ。のためにがすり潰されたら本末転倒だ。俺がんだら、健が売るなり何なりして、活のしにすりゃいい』ってな」
のが混乱した。 売っていいとっていた。 放すことを、祖父は許していた。 なら、どうして――
「だったら、どうして私に『拒否権』なんて遺したんですか? お父さんにそのまま相続させて、好きに売らせてやればよかったじゃないですか! そのせいで今、のはめちゃくちゃです! お父さんは私をんでるし、遥の結婚まで壊れかけてる!」
私の声が、わず擦った。 溜め込んでいた疲労と恐怖が、りとなって溢れしそうになる。
鈴はることもなく、静かに私を見つめていた。 そして、いをいた。
「咲ちゃん。健が、に何をやらかしたか、おはってるかい?」
「……?」
私は記憶を繰り寄せた。 。私が学、歳の頃だ。 あのの、父は突然会社員を辞めてに戻り、祖父の果園を伝うと言いした。 その直、なぜかの空気が刺々しくなり、祖父が切にしていた裏の杉林が、ごっそりと伐採されて更になった。 子供だった私には「を売ってしいトラクターを買った」と説されていたが――
「健はな」 鈴の声がくなった。 「『これからはリンゴ果汁の独自加と通販の代だ』って、素性のれん県のブローカーに唆されてな。農協の融資だけじゃ飽きらず、怪しげな融業者から千万円いを引っ張って、粗悪な搾汁プラントの械を買い付けちまったんだ」
臓が、ドクンと嫌な音をてた。
「械はかず、ブローカーは隠れした。残ったのは、法な利の借だけだ。健はパニックになって、夜逃げするだの、するだの、泣き叫んで取り乱した。