"母を遠ざける姉の嘘" 第16話
その常の景が、今のこの異常な空ので、奇妙に浮き彫りになっていた。
「……何の真似よ、千佳」
美咲の声はく、をうように震えていた。 その瞳には、昼見せていた嘲笑の仮面はもうない。 剥きしの苛ちと、自分の縄張りを侵された野獣のような、鋭い警戒だけがギラギラとっていた。
「がって、お姉ちゃん」 私は玄関のがり框(かまち)にち、歩も引かずに言った。
「は寒いでしょ。話があるの」
「話? まだ何かあるの?」 美咲は唇を歪め、靴を乱暴に脱ぎ捨てながらがり込んできた。
「朝、あれだけ言ったはずよ。京へ帰れって。鍵をポストに入れてていけって! 私の言うことが理解できないの? あんた、でもおかしくなったわけ!?」
美咲は私を押しのけるようにして、居へと向かった。 けれど、引き戸をけた瞬、姉のがピタリと止まった。
居のこたつ板の。 そこには、昼に母がぶちまけて破れ、私が丁寧に皺を伸ばした枚のい――『介護認定申請』の控えが置かれていた。
その隣には、に届いたはずの、あの蘇のお菓子の箱と、のカシミヤのストール。
そして、その央に。 押し入れの奥から引きずりしてきた、冊の黒いフラットファイル――『母・介護誌』が、然と積みげられていた。
番のファイルは、あのののページがかれたまま、蛍灯の青いを浴びていた。
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美咲の背が、目に見えて張った。 持っていたコンビニの袋が、カサリと音をてて畳のに落ちる。 納豆のパックが転がりたが、美咲はそれを拾おうともしなかった。
「……あんた、これ」
美咲がゆっくりと振り返った。 その顔から、急速に血の気が引いていくのが分かった。 く濁ったりが、姉の瞳の奥で渦を巻いていた。
「勝に……の部を漁ったの?」
「漁ったんじゃないよ」 私は居に戻り、こたつの端、美咲の正面に腰をろした。
「客の押し入れに入っていた毛布を取ろうとしただけ。そうしたら、奥にこれが積まれてたの。……、お姉ちゃんが毎毎、欠かさずいてきた記録」
母は、こたつの最もい隅にさく丸まり、毛布を肩まで引きげて震えていた。 美咲の顔を見ることもできず、ただ膝を抱えて、の点を見つめている。
美咲は震える指先で、積みげられたファイルを睨みつけた。
「プライバシーの侵害よ……。犯罪よ、こんなの。警察を呼んでやる」
「呼べばいいよ」 私は淡々と言った。
「警察を呼んで、この誌を見せればいい。ついでに、昼ってきた域包括支援センターの佐伯さんにも来てもらいましょうか。、役所のがデイサービスを勧めてくれた、お姉ちゃんがどんな言葉で追い払ったのか、全部記録に残ってたよ」
「域包括……?」
美咲のから、掠れた声が漏れた。
「ったの? あんた……あそこへったの……?」
「ったよ。母の次女として、正式に介護認定の申請をしてきた。費用も、続きも、すべて私が引き受けるって伝えてきた。来週、調査員がこのに来る」
「何てことをしてくれたのよ!!」
美咲が絶叫した。 昼の比ではない、膜を劈くような鳴だった。 美咲はこたつにびかかり、申請の控えを鷲掴みにすると、力任せにつに引き裂いた。
ビリッ、ビリリッ!
の破片が宙をい、畳のに散らばる。
「余計なことをするな、余計なことをするな、余計なことをするな!!」 美咲は裂けた喉から血を吐きすように叫び続けた。
「誰が頼んだ!? 誰があんたなんかに頼んだのよ!? この、このの敷居を跨ぎもしなかったくせに! 京でぬくぬくと暮らして、たまにを振り込むだけで親孝した気になってる分際で! でがり込んできて、私の聖域をめちゃくちゃにする気!?」
美咲の形相は、もはやりを超えて、狂気に染まっていた。 肩で激しく息をし、こたつ板に両をついて、私をい殺さんばかりに睨みつけている。
その姿を見つめながら、私は胸の奥底で、静かに何かがえ切っていくのをじていた。
昨夜、このに着いたばかりの私なら、この姉の気迫に圧倒されていただろう。
自分のを恥じ、罪悪に苛まれ、「ごめんなさい」