"母を遠ざける姉の嘘" 第3話
「……っ」
私は震える指で、美咲の連絡先をタップした。 コール音が鳴る。 回、回、回。 回目で、プツリと通話が繋がった。
「もしもし、千佳?」
スピーカーから聞こえてきたのは、先ほどの狂気を含んだ鳴り声とは打って変わった、ひどく落ち着いた、そして疲労を滲ませた姉の声だった。
「お姉ちゃん……今、実にいるの?」
私は努めて声を震わせないよう、奥歯を噛みしめながら尋ねた。
「ええ、いるわよ。ちょうど仕事帰りに寄ったところ。お母さんに夕飯のおかずを届けに来たの」
「さっき、お母さんと話で話してたの。途で切れたけど……お姉ちゃんの声が聞こえた」
「……ああ、やっぱり」
美咲はさく、げさなため息をついた。 受話器越しに、子に腰掛けるような擦れの音が聞こえる。
「千佳、あんたね……あれほど言ったでしょう? お母さんに直接話しちゃダメだって」
その声には、妹を諭すような、れむような響きが含まれていた。 私は胸がざらつくのをじながら、言葉を返した。
「私がかけたわけじゃない。お母さんが、自分でかけてきたのよ。私に」
「……お母さんが?」
美咲の声が瞬、わずかに揺らいだ。 だが、すぐに元のややかな調子に戻った。
「受話器の横に、あんたの京の話番号をメモした古いが残ってたのね。捨てておけばよかったわ。……あんた、お母さんから何を聞いたの?」
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「何を聞いたかって……お母さん、泣いてたよ。『まだってるのか』って。『千佳が田舎を嫌って、私の顔も見たくないって言ってる』って。……お姉ちゃん、どういうこと? 私、そんなこと度だって言ったことない」
私の声が、自然とくなった。 胸の奥で、分の自責のが、急速に別の――鋭い信へと姿を変えていく。
「私、毎毎、帰りたいってお姉ちゃんに頼んでたよね? その度にお姉ちゃんが『お母さんの体調が悪いから』『来るな』って断ったんじゃない! どうしてお母さんに、私が帰りたがってないなんて嘘をついたの!?」
静寂が流れた。 話の向こうから聞こえるのは、古びた掛け計のカチカチという秒針の音だけだった。 やがて、美咲がたい、呆れ果てたような声をした。
「千佳。あんた、認症の初期症状ってってる?」
「……え?」
「あんたには配かけたくないとって、ずっと黙ってたのよ。京で懸命働いてるあんたに、これ以荷を背負わせたくなかったから」
美咲の調は、驚くほど滑らかだった。 まるで、あらかじめ用されていた台本を読みげるかのように。
「お母さんね、の頃から、軽い脳梗塞の遺症で、記憶の混濁と被害妄が始めてるの」
私の臓が、ドクンと嫌なね方をした。
「被害、妄……?」
「そうよ。自分が『娘たちに捨てられるんじゃないか』っていう恐怖がすぎて、現実と妄の区別がつかなくなってるの。
私がいくら『千佳も配してるよ』って言っても、急に『千佳は私をんでる』って泣きしたり、逆に『美咲が私のおを盗んだ』って騒ぎしたり……。さっきあんたに言ったことも、全部その妄のつよ」
「でも……お母さん、すごくしっかり話してたよ? 私の字のこととか、ストールのとか――」
「それが番厄介なところなの!」
美咲の声が鋭く尖った。
「認症の初期はね、昔の記憶や常の会話は普通にできるの! だから余計に、周りは振り回されるのよ! あんた、何もらないくせに、たった数分話で話しただけで何がわかるのよ!?」
激しい剣幕だった。 その迫力に、私は瞬、気圧されそうになった。
「私がね、毎どんないでお母さんの妄に付きってるか、あんたにわかる? 『千佳が会いたがってる』なんて本当のことを言ったら、お母さんは『京にかなきゃ』ってパニックを起こして、がかないのにへびそうとするのよ! だから私は、お母さんを刺激しないように、必で当たり障りのない嘘をついて宥めてるの! あんたが途半端に話なんかかけてくるから、お母さんの興奮状態がぶり返しちゃったじゃない!」
美咲の言葉は、完璧だった。 野で、老いた母親の介護をに引き受けている女の、痛な叫び。 京で何もらずに暮らしている妹への、正当なり。
普通の妹なら、ここで「ごめんなさい、らなかったの」