"完璧な夫に給料を突き返した朝" 第18話
バタンと玄関のドアが乱暴に閉まる音が、リビングに虚しく霊した。
残されたのは、義母と、亮介と、私のだけだった。
義母は、青ざめた顔でち尽くしていた。 首元の翡翠のペンダントが、胸元の激しいにわせて揺れている。
「亮介……あんた、私に嘘をついてたの……? 朋美さんの預をいつぶして……私に仕送りをしてたの……?」
それは、虚栄にきてきた女が、初めて直面した現実のみだった。 自分が「自の息子」から受け取っていた親孝のが、すべて見していた嫁の血肉を削ったものだったという事実。
「ごめん……ごめんよ、母さん……!」
亮介が、ついに決壊したように泣き叫んだ。 顔を涙とでぐしゃぐしゃに濡らし、テーブルにを擦り付けるようにして慟哭する。
「俺、怖かったんだよ……! 『がない』なんて言ったら、母さんに失望されるのが怖かったんだ! 会社でも、同期に負けたくなくて、輩のでカッコつけたくて……! 朋美が何とかしてくれるって、甘えてたんだ! 俺が……俺が全部悪かったんだよ……!」
の男のみっともない泣き声が、昼がりのリビングに響き渡る。
義母は、息子のその浅ましい姿を見つめながら、力なく子にへたり込んだ。 豪華な着物の袖が、テーブルのの寿司桶の端に触れ、え切ったマグロの脂を吸い取っていく。
「もう……いいわ」
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義母の声は、先ほどまでのさが嘘のように枯れ果てていた。
「旅は……キャンセルするわ。振り込まれた万円も、夕方にはあんたの座に戻すわよ。……それで、ローンを払いなさい」
義母はちがった。 その背は、入ってきたよりも回りも回りもさく、老いて見えた。
「朋美さん」
玄関へ向かう途、義母がを止めた。 だが、私の方を振り返ることはできなかった。
「……悪かったわね」
絞りすような、掠れた言。 謝罪とも、悔ともつかないその言葉を残して、義母は静かにドアを閉めててった。
*
嵐がった、リビングには耐え難いほどの静寂が残された。
テーブルのには、つかずの級寿司。 カピカピに乾燥し始めたウニが、惨めな残骸のように横たわっている。
亮介はに座り込み、虚ろな目で壁の点を見つめていた。 すべてを失った男の顔だった。 見栄も、プライドも、親戚の尊敬も、母親からの盲目なも。 彼が必に守り続けてきた「完璧な男」の仮面は、ので々に砕け散っていた。
私は、蔵庫から麦茶を取りし、グラスに注いで亮介のに置いた。
「……朋美」
亮介が、恐る恐る私を見げた。 その瞳には、かつて私を支配していた傲さは微もなかった。 あるのは、底れぬ悔と、怯えだけだった。
「婚……するのか?」
震える声で、亮介が訊ねてきた。
私はグラスの麦茶をみ、窓のを見つめた。 初の澄み切った青空が、どこまでも広がっている。
「すぐには、しないわ」
亮介の顔に、微かなが差した。 だが、私の次の言葉が、その甘い希望を徹に打ち砕いた。
「健太が学を卒業するまでの。そのに、あなたがどうやってこのをて直すかを見届けてから決めるわ」
私はテーブルのの請求と計簿の束を指差した。
「、を売りなさい。査定の予約は、私が朝番で入れておいたわ。残債を払って、元に残ったおは、すべて健太の学のための座に移します。あなたのゴルフセットも、来週までにすべてフリマアプリに品してください」
「……あ、ああ。わかった。売るよ。全部売る」
「それから、あなたの遣いは、来から万円です。昼代も含めて。み会代も、代も、すべてそのからやりくりしてください。りないなら、あなたがスーパーの見切り品を買って、自分で弁当を作って持っていきなさい」
「……わかった」
「そして、お義母さんやご親戚への連絡は、今切、すべてあなたが直接やり取りしてください。『今はおがないからけません』『お祝いはこれしか包めません』……全部、あなたが自分の言葉で伝えなさい。私の名を言い訳に使うことは、輪際、絶対に許しません」
「……うん。俺が……俺が全部、自分でやるよ」
亮介はポロポロと涙を流しながら、何度も、何度も頷いた。 その姿に、かつての夫の威厳はどこにもなかった。