"完璧な夫に給料を突き返した朝" 第15話
義母が鷹揚に顎をしゃくった。 正が慣れたつきで缶ビールをけ、義母のグラスに注ぐ。 黄の泡がちり、リビングには見すると裕福で、何自由ない「幸せな名」の団欒が広がった。
だが、その空気の底に澱のように溜まっている悪を、私は見逃さなかった。
喉を潤した義母が、グラスをテーブルのにトンと置いた。 その瞬、穏やかだったはずのリビングの空気が、スッとえ切ったものへと変貌した。
「さて、朋美さん」
義母の細い目が、獲物を狙う蛇のように私を射抜いた。
「美しいお寿司をいただくに、しハッキリさせておきたいことがあるのよ」
由里もまた、笑を浮かべながら腕を組んだ。正は気まずそうに目を逸らし、元の鉢にいじましく箸を伸ばしている。
「旅代のことですか?」
私が平然と問い返すと、義母の眉にい皺が寄った。
「ええ、そうよ! わかっているなら話がいわね。曜の夕方、旅会社への支払期だったのよ? それなのに、私の座に振り込まれてきたのは、たったの万円! 残りの万はどうしたのよ! おかげで私、親戚の伯母さんたちにをげて、幹線のグランクラスの予約を普通に変更せざるを得なかったのよ!? 恥をかかされた私のにもなりなさい!」
義母の言葉に、由里が待ってましたとばかりにを挟んだ。
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「そうよ、朋美さん。あんまりじゃない? 母さんがどれだけあの旅を楽しみにしてたか。亮介が『全部すから配するな』って言ってくれたから、母さんも親戚に自しちゃってたのよ? それを嫁のあなたが勝に値切るなんて、佐藤の男の嫁として恥ずかしくないの?」
「亮介さんは、毎取りで万円も稼いでる派なサラリーマンよ」
義母が扇子をパチンと鳴らし、を乗りしてきた。
「そのお料を、あの子は結婚してから、円も隠さずに全額あなたに渡してきたんでしょう? 親戚探したって、あの子ほど来た夫はいやしないわ。それなのに、たかが万の親孝すら渋るなんて、体どういう銭覚をしているの? 息子の稼いだで良い暮らしをしておきながら、義理の親にはし惜しみ? ……あなた、自分の実にはいくら横流ししてるのかしらね」
「母さん、それは……!」
亮介が慌てて割って入ろうとした。 だが、その声は擦り、義母を止める迫力など微もなかった。
「黙ってて、亮介! あんたが優しすぎるから、この女が増するのよ! 財布を預けてるのをいいことに、裏で何をやってるか分かったもんじゃないわ。ねえ、朋美さん。言っておくけど、うちの親族はみんなを揃えて言ってるわよ。『亮介の嫁は、もないし気が利かないくせに、財布の紐だけは汚く握りしめてる』ってね!」
義母の言葉が、鋭い礫となってリビングにび交う。 由里が嘲笑い、正が黙々と寿司を頬張る。 そして、そのに座る亮介は、ただを向き、膝ののナプキンをギュッと握りしめて震えていた。
いつもの景だ。 私が悪者になり、私がをげ、私が「私のやりくりが至らず、申し訳ありません」と泣き寝入りすることで、このの平は保たれてきた。 亮介のプライドは守られ、義母の虚栄は満たされ、親戚たちは「できた息子と、愚かな嫁」という都の良い物語に満して帰っていく。
私は、ゆっくりと息を吸い込んだ。 たい空気が、肺の隅々まで満ちていく。
「お義母さん」
私の声は、驚くほど静かで、凛と澄んでいた。 義母が怪訝そうに眉をひそめる。
「お話ししたいことが、まさにその件なんです」
私はちがり、壁際に置いてあった黒いビジネスバッグから、丁寧に製本テープで留めた冊の分いクリアファイルを取りした。
「何よ、それ」
由里が眉をひそめる。
「過、私がこので記録し続けてきた、計の全記録です」
私は冊のファイルを、義母、由里、正、そして亮介の目のに、冊ずつ滑らせた。 バサリ、バサリと、なの束がテーブルに落ちる音が響いた。
「言い訳のレポートでもいたつもり? 見苦しいわね。計簿なんて、いくらでも誤魔化せるじゃないの」