"完璧な夫に給料を突き返した朝" 第14話
亮介は私の膝にすがりつこうとを伸ばしてきた。 私はそのを、たく払いのけた。
パチンと、乾いた音が響いた。
「断るわ」 「朋美……っ!」 「いいわよ。事会、やりましょう」
私の瞳に宿ったを見て、亮介は息を呑んだ。 怯えも、絶望も、そこには微もなかった。 あるのは、ただく、研ぎ澄まされた決だけだった。
「お義母さんも、お義姉さん夫婦も、みんな呼んでちょうだい。豪勢なお寿司でも取ればいいじゃない。あなたのクレジットカードでね」 「え……? 朋美、ってないのか……?」 「ってないわよ。楽しみだわ」
私は背を向け、斎へと向かった。
逃げるためではない。 準備をするためだ。
斎のデスクの引きしから、私は過分の確定申告の控え、亮介の与細の原本、宅ローンの返済償還表、そして、私の独代の通帳と、実の母から贈与として受け取っていた教育資の細を取りした。
枚枚、丁寧にコピーに通していく。 青いスキャナーのが、リズミカルに面をなぞる。 ウィーン、カシャン。ウィーン、カシャン。
分の数字。 分の嘘。 分の、私の尊厳の代償。
全部、揃えてあげる。 親戚が集まる、そのれやかな席で。
「誰が誰にをげるべきか……その席で、きっちり決着をつけましょう」
コピーから吐きされる、温かいの束を胸に抱きしめながら、私は暗い部ので、静かに微笑んだ。
広告
週末の嵐を告げるが、窓ガラスをカタカタと揺らし始めていた。
曜の正午、がの玄関のインターホンが、けたたましく鳴り響いた。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。 髪を入れずに度。相の苛ちと傲さが、その指先からチャイムの音となって伝わってくるようだった。
「……来た」
リビングのソファの端で、背を丸めて縮こまっていた亮介が、喉の奥でけない鳴をげた。 ワイシャツの襟元はよれ、目のには黒々とした隈が張り付いている。曜の夜からもできていない男の顔だった。
「亮介さん、お迎えして差しげたら? あなたの切なご族よ」
私がエプロンをしながら静かに促すと、亮介は怯えた野良犬のような目で私を見げ、い取りで玄関へと向かった。
ガチャリとドアがく音と同に、華やかで、どこか押しつけがましいの匂いが廊に流れ込んできた。
「まったく、遅いわよ亮介! を何分待たせる気なの!」
義母・悦子の甲い声が響く。 続いて、亮介の歳の姉である由里の、これ見よがしに呆れたような笑い声。
「こんにちは〜。ほら、あなたもくがって。靴並べてね」
由里の夫である義兄の正も緒だった。 休の昼だというのに、義母はデパートの特選売りで誂えたような豪奢な初の着物にを包み、首元には粒の翡翠のペンダントをらせていた。
由里もまた、名ブランドのロゴがきくプリントされたハンドバッグを抱え、品定めをするような線で廊を見回している。
「お邪魔するわね。……あら、朋美さん。わざわざお迎えもなし?」
リビングに入ってきた義母が、私を見るなり眉の端をピクリと吊りげた。
「いらっしゃいませ、お義母さん。お義姉さんも、正さんも、よくお越しくださいました」
私が丁寧にをげると、義母はを鳴らし、部の央のダイニングテーブルにドカリと腰をろした。
テーブルのには、駅の老舗寿司から届いたばかりの、特寿司の桶がつ並んでいた。ウニ、トロ、アワビ、イクラ。青々とした笹の葉のに、贅の限りを尽くしたネタが誇らしげにっている。
「まあ、豪勢なお寿司じゃない。亮介、気を利かせたわね」
由里がを叩いてんだ。
「当たりですよ、姉さん。今は親父の回忌の法事の打ちわせを兼ねて、族入らずで事な話をするなんですから。……ね、朋美」
亮介が、引き攣った笑顔を顔面に張り付けながら、私に助けを求めるような線を送ってきた。 その寿司の代、万千円。 昨、残寸の亮介のクレジットカードで、彼自が震えるで決済した見栄の塊だ。
「さあ、皆さん、乾杯しましょう。亮介、ビールけて頂戴」