"完璧な夫に給料を突き返した朝" 第10話
受話器の向こうから、スピーカーから漏れるほどの甲い義母の声が、リビングに響き渡った。
亮介の顔が、見るも無残に歪んだ。
「あ……母さん……あのさ……今、ちょっと……その……」
言葉が、続かない。 いつも会社で威勢よく部に指示をし、輩に盤振るいし、では「やりの営業マン」気取りの男が、実の母親のヒステリックな声つに、蛇に睨まれた蛙のように竦みがっている。
『何よモゴモゴして! 朋美さんに代わりなさい! あの子に直接文句言ってやるわ! 息子の稼いだで贅沢昧してるくせに、親孝のつもできないなんてどういう躾されてるのよ!』
その言葉を聞いた瞬、私は亮介のから受話器をひったくろう……とはしなかった。
ただ、亮介の目を見つめて、唇の端をわずかに吊りげた。
(ほら、聞きなさいよ) (これが、私が、あなたのために浴び続けてきた言葉よ)
亮介の目が、絶望に染まっていく。
「ち、違うんだ母さん……朋美は悪くないんだ……今、ちょっとが……」 『はあ!? おがない!? あんた取りで万以もらってるんでしょ!? たかが万がせないわけないじゃない! あんた、まさかあの女に丸め込まれてるんじゃないでしょうね!?』
受話器の向こうの声は、さらに激しさを増していく。
その、廊の奥からカチャリとドアがく音がした。
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学の健太が、シャーペンを握りしめたまま、そうにリビングを覗き込んでいた。
「……お父さん? お母さん? ……何か、あったの……?」
健太の線が、テーブルのの請求のと、受話器を握りしめて脂汗を流す父親の姿に注がれる。 そして、赤ペンで囲まれた自分の塾のパンフレットに止まった。
亮介の喉から、ヒッと引き攣ったような音が漏れた。
母親からの容赦ない罵声。 息子からの怯えたような、すがるような線。 に迫る、容赦のないローンの引き落とし。
そして、目ので腕を組み、え切った瞳で自分を見つめる妻。
誰のにも隠れられない。 誰のせいにもできない。 万円という「免罪符」を奪われた男が、初めて直面した、逃げのない現実の獄。
「あ……あ……」
受話器を持ったままち尽くす亮介の元で、義母の鋭い声がなおもキンキンと響き続けていた。
夜のが、がのリビングをく、く塗りつぶしていった。
受話器から漏れる義母の切り声と、ドアの隙から覗く息子の怯えた瞳。
そのつの線に挟まれた亮介は、まるで両両を縛られた操り形のように、そのにち尽くしていた。 額から流れる脂汗が、顎の先からポタリとスリッパの甲に落ちる。
「……あ、母さん。で、で掛け直すから……」
亮介は蚊の鳴くような声でそう絞りすと、相の返事も待たずに、逃げるように受話器をフックに叩きつけた。
ガチャリという乱暴なプラスチックの音が、静まり返ったリビングに痛々しく響いた。
「お父さん……?」
健太がおずおずと、リビングのに歩を踏み入れた。 そのには、使い古されて角が丸くなった問題集が握られている。 息子の目は、テーブルのに散らばった請求のと、赤ペンで囲まれた自分の『期集特訓講座』のパンフレットに釘付けになっていた。
「健太」
私は努めて穏やかな声で呼びかけた。
「まだ勉の途でしょう。もうすぐご飯ができるから、部で待ってて」 「……うん。でも……」
健太は父親の青ざめた横顔を見つめた。 いつもなら「おー、健太! 頑張ってるな! 男は勉も部活も番を目指さなきゃな!」と豪に肩を叩いてくる父親が、今夜は息子の顔を直することすらできず、線を泳がせている。
子どもは、がっている以に敏だ。 健太はそれ以何も言わず、唇を文字に結んで、静かに自分の部へと戻っていった。 パタンと閉まったドアの音が、亮介の臓を直接叩いたかのように、彼の肩がびくりとねた。
リビングに残されたのは、私と亮介のだけだった。
「……朋美」
亮介が、掠れた声で私を呼んだ。 先ほどまでの圧な態度や、専業主婦を見すような傲さは、綺麗に剥ぎ取られていた。
「これ、どうすりゃいいんだよ……」
テーブルのの卓と、請求の。 取り万円に対して、確定している支が万円。