"完璧な夫に給料を突き返した朝" 第6話
あと、健太の塾も、まあいことやっといてよ」
ドアがく。 初の爽やかな朝のが、玄関に差し込んだ。
「ってらっしゃい」
私は、いつも通りのトーンで答えた。 カチャリとドアが閉まり、亮介の軽やかな音が階段をりていく。
静まり返った玄関で、私はののスマートフォンを操作した。
アプリをく。 【振込続き】を選択する。 振込先:佐藤亮介。 額:450,000円。
数料:330円。 確認画面にむ。 「記の内容で振り込みを実しますか?」
私は迷うことなく、決定ボタンをタップした。
【振込が完いたしました】
画面の表示を見届けた、私はメッセージアプリをき、亮介のアカウントに向けて、く通のメッセージを送信した。
『今のお料、全額あなたの座にお返ししました。 今からは、あなたが自分で先におを払う先を決めてください。 誰を断るかも、あなたが決めてください』
スマートフォンの画面を伏せ、テーブルのに置く。 窓のから、けたたましいカラスの鳴き声が聞こえた。
佐藤亮介の「完璧な夫」としてのが、今、始まろうとしていた。
午過ぎ、私のスマートフォンはまるで発作を起こしたかのように刻みに震え始めた。
画面には【佐藤亮介】の文字。 回、回、回。 切れては鳴り、切れては鳴る。 普段なら仕事に私用話など絶対にかけてこない夫が、わずか分のに回も着信を残していた。
広告
そのに、メッセージアプリの通が滝のように流れ込んでくる。
『おい、どういうことだ?』 『さっきの振り込み、違いだろ?』 『座に万戻ってるぞ。システムエラーか?』 『朋美、見たらすぐ話しろ。会議に入るに連絡くれ』
私はスマートフォンの画面を伏せ、キッチンのシンクに向き直った。
蛇をひねり、たいでスポンジを泡てる。 昨夜の豚肉の油がこびりついたフライパンを、力を込めて擦った。 泡がく泡ち、茶い油汚れを絡め取って排へと流れていく。
が、震えていない。 そのことに、自分自で驚いていた。
いつもなら、亮介から件LINEが入るだけで臓がねがっていた。 「今夜、部と飯っていくから」 そのを見るたびに、私ののでは卓の数字が猛スピードで回転した。 次会で千円、次会で千円、終を逃してタクシーなら万千円……今の活費の残りはあといくらあったっけ。どこを削ればりる? の夕飯のメインを鶏胸肉ともやしにすれば、千円浮くかしら。
そんな惨めで、みみっちい計算を、私は、も欠かさず続けてきたのだ。
でも、今は違う。 私の座残は、今朝の点で万千円。 それは、私が今の残りの費と用品代として、スーパーの特売チラシと睨みいながら守してきた正真正銘の「活費」
の残りだけだ。 夫の料万円は、すでに私の元にはない。
フライパンを洗い終え、清潔な布巾で滴を拭き取る。 計の針はを回っていた。
私はリビングのクローゼットの奥から、分いプラスチックの蛇腹ファイルを取りした。 には、過分の領収、クレジットカードの利用細、ローンの返済予定表、公共料の領収証、そして健太の学や塾から配られた集関係のプリントが、ごとにインデックスを貼られて几帳面に理されている。
私が、誰にも見せることなく、で血を流しながら記録し続けてきた「がの現実」だ。
それを冊ずつ取りし、リビングのダイニングテーブルのに並べていく。 番には、今朝までに届いていた最の請求。
・宅ローン引き落とし通:142,000円(引き落とし:27) ・マイカーローン引き落とし通:40,000円(引き落とし:27) ・マンション管理費・修繕積・駐代:35,000円(引き落とし:28) ・亮介名義クレジットカード利用細:84,200円(引き落とし:27) ・健太の学ゼミナール通常授業料+模試代:58,000円(引き落とし:27) ・気・ガス・料算:24,600円(引き落とし:末) ・族分の携帯話・回線通信費:18,400円(引き落とし:末)
テーブルの目のに、いが然と並ぶ。
これだけで、すでに万千百円。