"教室の最後列に座る元教員" 第19話
声がない。涙が次から次へと溢れし、膝ののウールコートに黒い染みを作っていった。
「あんたのあのの優しさはな、ただの毒だったんだよ」
健君は静かに言い放った。
「自分がいい先のままにたいっていう、あんたの勝なエゴだった。……だから俺は、机を叩いたんだ。あんたに悠を壊されてたまるかって、本気でったからだ」
「……ごめんなさい」
私のから漏れたのは、掠れた、消え入りそうな謝罪だった。
「本当に……ごめんなさい、健君……」
私はビールケースから崩れ落ちるように膝をつき、たいコンクリートのに両をついた。
を擦りつけ、肩を震わせて泣いた。
ので、これほどまでに己の浅ましさをいらされたことはなかった。
私は彼を救うどころか、も、そして今も、自分のプライドのために彼ら親子を崖っぷちへ突き落とそうとしていたのだ。
から、健君のため息がってきた。
だが、そこにはもうりはなかった。
「……もう、いいですよ」
い擦れの音がして、健君が私の腕を掴んだ。
分く、ヤスリのようにざらついたのひらだった。そのの力が、私の老いた体を引に引き起こした。
「顔をげてください。……悠が見てます」
私は涙を拭いながら、おそるおそる顔をげた。
作業のを止めた悠君が、タライの向こうからこちらを見ていた。
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その目には、蔑みはなかった。ただ、くをげる私の姿と、それを支える父親の姿を、まっすぐに、逃げずに見つめていた。
健君は空になった缶コーヒーを皿の横に置くと、私から歩を引いた。
「柴田先」
彼は初めて、私を『先』と呼んだ。あの、坂で吐き捨てたような呼び方ではなく、つの区切りをつけるような、静かな響きだった。
「あんたが毎、保護者会に来てたこと……もうんじゃいません」
「健君……」
「最初の数は反吐がそうだったけどな。……けど、あんたが毎毎、懲りずにろの席に座り続けてるのを見てるうちに、分かったこともあったんですよ」
健君は、く笑った。その顔は、い昔、私が初めて教で会った歳のの面を、ほんのしだけ宿していた。
「あんたも、苦しかったんだろ」
胸の奥を、い刃物で貫かれたような気がした。
「派な先ぶって、俺を追いして……退職してになって、ずっと悔してたんだろ。だから、あの席に座るしかなかったんだ」
「……っ」
「あんたのそのさは、虫酸がるほど嫌いだけどな。……でも、あんたが、俺のことを忘れられなかったことだけは、本当だったんだと分かったから」
健君は作業着のポケットに両を突っ込み、さく顎をしゃくった。
「だから、もう終わりにしましょう。
あんたは俺に分な罰を受けたし、俺もあんたに言いたいことを全部ぶちまけた。……これ以、互いの過に縛られてきるのは、ごめんだ」
が、のを吹き抜けていった。
のトタン根が、カタカタと乾いた音をてる。
「悠は、からもう度学へ戻ります」
健君は息子のほうを向いた。
「留になるか、ギリギリで級できるかは、これからのあいつの態度次第だそうです。……あいつには、自分の力で卒業させます。俺がろ盾になってやるつもりもねえし、誰かの同に縋らせるつもりもねえ。あいつが自分ので、あのをてくのを見届けるのが、俺の仕事ですから」
その言葉には、切の迷いがなかった。
自らの過ちを直し、自らのでを渡りきろうとする者の、揺るぎない覚悟だった。
私はく、く息を吸い込んだ。
たい空気が肺腑を満たし、の奥のが、音をててれていくのをじた。
私はちがり、乱れたコートの裾をえた。
両を脇に揃え、腰を折った。
今度は、許しを乞うための礼ではなかった。
のとして、そしてかつて彼に何も教えることができなかった元教員として、目のにつ真の教育者に対する、からの敬礼だった。
「……ありがとうございました、さん」
私の声は、もう震えていなかった。
健君は何も言わず、ただく頷いた。
私が背を向けて歩きそうとした、背からい声が響いた。