"教室の最後列に座る元教員" 第17話
埃っぽい業団のには、柱が踏み砕かれた跡がく残っている。
『自業』の敷に入ると、以のような喧騒はなかった。
型トラックが台、ジャッキアップされて並んでいる脇で、属と属がぶつかりうい音が響いていた。
カン、カン、と響くハンマーの音。
私はドラム缶のにち止まり、息を呑んだ。
ピットの脇、吹き晒しのコンクリートので、のが分いゴム袋をはめて作業をしていた。
悠君だった。
彼はすっかり褪せた黒のツナギを着込み、え切ったが流れるタライのにしゃがみ込んでいた。
赤錆と油で黒ずんだ型のホイールを、真鍮のワイヤーブラシで乱に擦っている。
ピシリと凍りつくようながね返り、の頬を濡らしていた。袖から覗く首は赤く腫れがり、あかぎれが裂けて痛々しい血が滲んでいる。
それでも、悠君はを止めなかった。
歯をいしばり、眉根を寄せ、吹き付ける寒ので、ただ黙々と、鉄にこびりついた汚れを削り落としていた。
その横顔には、あのの夜、徒指導で怯えて泣き叫んでいた々しさはなかった。
かといって、に会ったのように世界を憎悪するような棘もない。
ただ、自分が背負わされた罪のさと、たいの痛みを、自分の皮膚で直接受け止めているの顔だった。
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「――おい」
い声がの奥から響いた。
振り返ると、油圧ジャッキのから健君がてくるところだった。
に巻いたタオルのから、湯気のようにい息がちっている。彼はにしたスパナを腰の具袋に差し込み、息子の背に歩み寄った。
「悠。力任せに擦るな。ブラシの毛先を当てろ。力だけで落とそうとするから、鉄が傷むんだ」
「……うん」
悠君はく答え、父親の言葉通りに元の角度を変えた。
健君は息子のにポンと無骨な掌を度だけ乗せると、ふと線をげ、敷の端につ私に気づいた。
健君のが止まった。
悠君も父親の線を追って顔をげ、私を見た。
氷のようなが、のを吹き抜けていく。
悠君の瞳が瞬だけ揺れたが、すぐに線を元のホイールに戻し、再びブラシをかし始めた。
ガリ、ガリ、と規則正しい属音が、静寂を満たしていく。
健君はしばらくの、黙って私を見つめていた。
あの夜のような激しいりも、のようなえ切った嘲笑も、その顔には浮かんでいなかった。ただ、く刻まれた眉の皺の奥に、乾いた諦と、どこか澄んだ静けさがあった。
彼は首のタオルで顔の汗を拭うと、の壁際に設置された古い自販売へ向かって歩きした。
銭を投入するチャリンという乾いた音が響く。
ガコン、とい缶が落ちてきた。
健君はそれを取りすと、私に向かってまっすぐに歩いてきた。
私はそのにち尽くし、両を体ので握りしめた。
づいてくる彼の音。使い古された全靴の爪先が、私の、メートルほどのところで止まった。
械油と、汗と、たい鉄の匂いがち込める。
「……んでください」
差しされたのは、温かい缶のほうじ茶だった。
アルミの缶肌から、じんわりとしたが私の凍えた指先に伝わってくる。
私はその缶の両端を握りしめ、喉の奥がつかえて声がなかった。
「……健君」
「座りましょう」
健君は自販の脇に積まれていた、黄いプラスチックのビールケースをつ、で払って並べた。
彼はそのつにドカリと腰をろし、自分の分の缶コーヒーのプルタブを引いた。カシュッという鋭い音が、寒空にさく響く。
私は勧められるまま、もうつのケースに、おそるおそる腰をろした。
トタンの壁がを遮っていたが、座面からはプラスチックの気が容赦なくお尻を刺した。
方のピットでは、悠君が休むことなくをかし続けている。ブラシが鉄を擦る乾いた音だけが、絶えなく続いていた。
「学には、もうってません」
健君がを向いたまま、ぽつりと言った。
「あいつ、昼はずっとここで働かせてます。
学がけるまでは、歩もにさねえ約束です。