"教室の最後列に座る元教員" 第15話
言も、言い返せなかった。
彼の言う通りだった。
私は悠君を見ていなかった。
彼がどんな悩みを抱え、どんな悪に巻き込まれ、どんなさから罪にを染めてしまったのか、その現実を直しようともしなかった。
私はただ、自分の過の汚点を洗い流すための『都のいい被害者』として、悠君を利用したのだ。
「あいつがな被害者であってくれなければ、私の贖罪が完成しない」
そのおぞましい無識の傲さを、健君は瞬で見抜いていたのだ。
ドアが静かにき、警察官に付き添われた悠君が、指導の入りに姿を現した。
の顔は涙とでぐしゃぐしゃに汚れ、唇を震わせていた。
父親の背を見た瞬、悠君はそのに崩れ落ちるように正座し、額をたいリノリウムのに擦りつけた。
「父ちゃん……ごめんなさい……! 俺……俺……!」
健君は、息子の元へ歩み寄った。
殴りつけるかとった。鳴り散らすかとった。
だが、健君は違った。
彼はだらけの息子のに膝をつき、油まみれの太いで、息子の細い肩を力いっぱい抱きしめた。
「……馬鹿野郎」
健君の声は震えていたが、そこには揺るぎない覚悟が宿っていた。
「やったことは、消えねえ。……これから、でげて回るぞ。顕微鏡の弁償も、俺が働く。おも働け。逃げるな。絶対に、逃げるな」
広告
「うわああああん……っ! 父ちゃん、ごめんなさい……!」
の号泣が、夜の指導に響き渡った。
それは、罪を犯したと、その罪を真正面から受け止めて共に背負おうとする父親の、剥きしの命のやり取りだった。
そこには、教育理論も、退職教員のプライドも、入り込む余などミリもしなかった。
私は、ただち尽くしていた。
指先つかせず、息を殺し、の聖域のような景の側に弾きされていた。
やがて、警察官が悠君を促し、続きのために指導をていくことになった。
健君はちがり、藤教諭と教に向かって、々と、腰が折れるほどくをげた。
「申し訳ありませんでした。すべて、父親である私の監督き届きです。どんな処分でも受け入れます」
藤教諭は気まずそうに線を逸らし、「……警察の聴取の、改めて処分を検討します」とだけ答えた。
健君は息子に付き添い、指導のへと向かった。
私の横を通り過ぎる、彼はを止めた。
の夜が、いたドアから吹き込んできた。
健君は、の歳ので初めて、私の顔を真っ向から見据えた。
その目は赤く腫れがり、疲労に満ちていたが、議なほど澄んでいた。
「柴田先」
彼は静かに言った。
その声には、もう声の棘はなかった。
ただ、の父親としての、く、揺るぎない現実だけが込められていた。
「今回のあいつは、本当にやったんですよ」
私は息を呑み、震える唇を引き結んだ。
「あんたが昔、俺に悪いことしたからって……あいつが無実だなんて嘘をつかないでくれ」
胸の奥で、カランと音をてて何かが砕け散った。
「俺は、あいつを犯罪者のまま終わらせたくないんだ。悪いことをしたら、ちゃんと叱られて、罰を受けて、自分のでち直らせなきゃいけないんだよ。……あんたのその途半端な罪滅ぼしで、あいつの現実を濁さないでくれ」
健君はそれ以、何も言わなかった。
彼は息子の背にを添え、夜のたい廊の向こうへと歩いていった。
ざかるの音。
の啜り泣きと、い全靴の規則正しい音。
指導の真んに、私はで取り残されていた。
窓のでは、たいのが、激しさを増して舎のガラスを叩き続けていた。
私は両で顔を覆った。
指の隙から、い涙がボロボロと溢れし、止まらなかった。
恥ずかしかった。
んでしまいたいほど、自分が浅ましく、愚かで、惨めだった。
私は、自分が「徒をく理解しようとする優れた教師」であるというを守るために、彼ら親子を自分の贖罪の台の具にしていたのだ。
教壇をってなお、私は何も学んでいなかった。
徒を見ることも、を見ることも、何つできていなかった。
当、歳の健君を理科準備で切り捨てたあの酷な女教師のまま、私は歩も成していなかったのだ。