"教室の最後列に座る元教員" 第11話
声をかけたそうですが、彼は止まらずに逃げたそうです」
息が止まりそうだった。
「今、と徒指導部が職員に集まっています。警察も現検証に入っています。……悠君の自宅に連絡を入れましたが、本はまだ帰宅していないらしく、父親の健さんが今、学に呼びされています」
「処分は……学はどうするつもりなの?」
「藤教諭は、即座に警察に被害届をし、退学処分にするべきだと主張しています。悠君は普段から授業態度が悪く、遅刻やとの喧嘩が絶えませんでした。……正直に申しげて、職員の空気は、もう彼が犯であるということで完全に固まっています」
と同じだった。
恐ろしいほどに、寸分違わず同じだった。
荒れた庭環境。頃の素の悪さ。現に残された状況証拠。教師たちの先入観。
そして、「あいつならやりかねない」という、あの酷な空気。
『悠は、盗みなんかしてませんよ』
あのの坂で、健君が私の背に向けて言い放った言葉が、鳴のようにので轟いた。
『あんたが配しなくても、あいつはのなんか取らねえ。……俺がそう育てたからな』
あの子が、盗みをするはずがない。
父親があれほどにまみれ、自分のを犠牲にしてまで守ろうとしてきた息子が、のを盗んで器を叩き壊すはずがない。
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もし、悠君が本当にやっていないのだとしたら。
もし、かつての健君のように、状況証拠と偏見だけで追い詰められ、無実の罪を着せられようとしているのだとしたら――。
「柴田先? もしもし、先?」
受話器の向こうで松教諭が呼ぶ声が、くから聞こえるようだった。
「松先」
私のからた声は、自分でも驚くほどたく、鋭く研ぎ澄まされていた。
震えは止まっていた。全の血液が、沸騰するようにく逆流していた。
「健さんは、何に学に着く予定ですか」
「えっ……おそらく、あと分ほどで到着されるかと。ですが先、関係のない先が今から来られても……」
「関係なくありません」
私は受話器をく握り直した。
「今から、学へ向かいます」
通話を切ると、私は着をひっつかみ、玄関へとった。
がっていることなど、どうでもよかった。傘をに取ることすら忘れ、私は暗のへとびした。
、私は保のためにち止まり、のの叫びを無した。
その結果が、健君の失われた青であり、あののたい油の匂いだった。
度も同じ過ちを繰り返させてたまるものか。
今度こそ、私がこので止めなければならない。
たいのが容赦なく私の顔を打ち据える、私は夜のを、に向かってひたすらりしていた。
のたいは、私のの芯まで容赦なくやし尽くしていた。
傘も差さずにタクシーをびりた私の靴は、の正をくぐった瞬に、いを吸いげてぐっしょりと濡れた。
刻は午分。
普段なら静まり返っているはずの舎の階、理科棟の窓だけに、くたい蛍灯のかりが灯っていた。昇のには、赤灯を消した警察のパトカーが台、に打たれながら黒い巨体のように沈黙している。
傘ての脇で息を切らす私のに、息を詰めたような顔をした松教諭が駆け寄ってきた。
「柴田先……本当に来られたんですか。着物も髪も、びしょ濡れじゃないですか」
「松先、悠君は?」
私は乱れた髪を払うこともせず、輩教諭の腕を掴んだ。指先が寒さで刻みに震えていた。
「悠君は……さっき警察のパトカーで、活全課の署員に連れられて学に到着しました。今は隣の教育相談で、女性の補導員が付き添っています。……現の鑑識は通り終わりましたが、藤先が収まりません。『現犯同然だ、今夜に反省文をかせて退学処分の続きに入るべきだ』と、教に詰め寄っています」
「父親の……健さんは?」
「分ほどに来られました。今、階の徒指導で、教と藤先から事聴取を受けています」
松教諭は困惑と焦燥の入り混じった目で、周囲の廊を見回した。
「先、お気持ちは分かりますが……もう先は退職されたです。