"教室の最後列に座る元教員" 第10話
健君は、息子がてったドアの隙をじっと見つめていた。その横顔には、先ほど私を責めてていたの鋭さはなく、の無力な父親としての、い、い疲労だけが刻まれていた。
「……帰ってください」
健君は私を見ずに言った。
その声には、もうりすら混ざっていなかった。
「あんたの謝罪は受け取れません。悠の言う通りだ。ここは、あんたみたいなが来る所じゃない。……度と、俺たちのに現れないでくれ」
私は袋を持ったまま、くをげた。
「……申し訳、ありませんでした」
それ以の言葉を見つけることができなかった。
私は逃げるようにをた。
国へ続く砂利を歩きながら、涙が止まらなかった。
自分がこれまでいかに温ので、綺麗事の教育論を振りかざしてきてきたか。
にまみれて息子を育てる健君の苦闘も、傷だらけになってを閉ざしていく悠君の痛みも、何つろうとせず、ただ「自分を許してほしい」というだけであのに踏み込んだ自分の浅ましさが、耐え難かった。
羊羹の入った袋のみが、私の首に鉛のようにい込んでいた。
私はその袋を、国沿いのゴミ箱に捨てることすらできず、胸に抱きしめたまま、夕暮れのを彷徨うようにしてへと帰った。
それから、半が過ぎた。
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私は健君との約束を守り、彼らの活圏には切づかなかった。
の周辺を散歩することもやめ、保護者会の記録を調べることも切しなくなった。自分は彼らにとって害悪でしかない。関わらないことだけが、私が彼らにできる唯の贖罪なのだと、自分に言い聞かせていた。
季節はを越え、へと移り変わった。
半ばの、たいがる曜の夜のことだった。
夜のを回った頃、リビングの固定話がけたたましい音をてて鳴り響いた。
受話器を取ると、懐かしい、しかし極度に切迫した男性の声が聞こえてきた。
「柴田先ですか? ……夜分遅くに突然申し訳ありません。の松です」
松教諭。
私が現役代、第学で初任者指導を担当した輩だった。今は理科の教諭としてに勤務しており、私がの保護者会に潜り込む際、程を教えてもらっていた物だった。
「松先? どうされたの、こんなに」
受話器の向こうから、松教諭の荒い息遣いが聞こえてきた。周囲を気にしているのか、声はひどく潜められていた。
「先……健さんの息子さんのことです。悠君の」
『』という名がた瞬、私の臓が凍りついたようにねた。
「悠君が、どうかしたの?」
「先ほど、学に警察から連絡が入りました。
……今夜、うちの理科準備が何者かに荒らされたんです」
受話器を握る私の指先に、急速に血の気が引いていった。
「理科準備……?」
「はい。窓ガラスが割られ、棚がこじけられていました。同窓会から寄付された価な子顕微鏡が台、に叩きつけられて破壊され……準備の庫に保管されていた、今週末の文化祭の模擬準備、現万千円が盗まれました」
ので、何かが激しい音をてて崩れ落ちていく覚があった。
。
職員の引きし。体育祭の学級費。万千円。
あのの悪が、鮮な映像となって脳裏にフラッシュバックする。
「それで……なぜ悠君の名が?」
私の声は、恐怖でかすかに震えていた。
「準備のに、争ったような靴跡と……のついたままのジッポライターが落ちていたんです」
松教諭の声は苦渋に満ちていた。
「そのライターの底に、彫刻刀で特徴な傷が彫られていました。……先、悠君が徒指導部に見つかって、度没収されたものと完全に致したんです。そのは『拾っただけだ』と言い張って、返却されたばかりでした」
「そんな……ライターなんて、誰かに貸したのかもしれないし、落としたのを誰かが拾って現に……」
「先、それだけじゃないんです」
松教諭が私の言葉を遮った。
「事件が起きたとわれる午過ぎ、藤という徒指導の教諭が、準備のある舎の裏から、自転で逃する悠君の姿を目撃しているんです。