"教室の最後列に座る元教員" 第9話
「……どうして、そうしなかったの」
「悠がいたからだろ!」
プレハブの窓ガラスがビリビリと震えた。
「俺が暴れりゃ、悠が『あの暴れる卒備士の息子』になるんだよ! 入学した初から、あいつにそんなレッテル貼らせるわけにいかねえだろうが! 俺がすりゃ、あいつは普通の徒として扱ってもらえる。だから俺は、あんたがろに座ってるのをりながら、爪が割れるほど拳を握りしめてだけ見てたんだよ!」
私の界が、涙で激しく歪んだ。
彼が保護者会でいつも背を丸め、膝のでを固く結んでいたあの姿。
私はそれを「慣れない学の空気に緊張しているのだ」と勝に解釈していた。
違ったのだ。
彼は、私のという最の屈辱に耐えながら、息子のために、ただそのでのように耐え忍んでいたのだ。
「目のもあんたは来た。目のも来た。……そのうちにな、俺は悟ったよ」
健君は吐き捨てるように言った。
「あんたは俺に謝りに来てるんじゃない。悠を配してるんでもない。ただ、俺が真っ当に働いてるのを見て、『ああ、私のせいで犯罪者になったわけじゃないんだ』って、しに来てるだけだ。自分が最に傷を負わないための、ただの自己満だ。……それが分かった、る気すら失せたよ。れなだとった」
私はっていられなくなり、壁にをついた。
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指先が震え、胸が激しく締め付けられる。
彼が言っていることは、何つ違っていなかった。
私は、自分の罪のさに耐えかねて、彼が「無事であること」を確かめることで、自らの魂を救済しようとしていただけだったのだ。
その、ので、キィーッという属の軋むブレーキ音が響いた。
続いて、荒々しく自転をスタンドにてる音。
「おい、親父。バンドエイドどこだっけ」
プレハブの引き戸が乱暴にけ放たれた。
入ってきたのは、青いチェックのシャツに、の制のスラックスを穿いただった。
悠君だった。
背丈は健君によく似てく、痩せ型の体躯をしていたが、その顔を見て、私はわず息を呑んだ。
制のワイシャツの襟元が引き裂かれ、ボタンがつ弾けんでいた。そして、の頬には赤黒い擦り傷があり、元が痛々しく腫れがって、乾きかけた血がこびりついていた。
「……悠」
健君の声が、瞬でく険しいものに変わった。
「その顔、どうした」
悠君は父親のに私という見らぬ老がっていることに気づき、わずかにを止めた。だが、すぐに線を逸らし、乱暴にを鳴らした。
「別に。チャリでコケただけだ」
「嘘をつくな」
健君がの腕を掴んだ。その太い指先が、息子の首にい込む。
「コケて制の襟首がちぎれるか。
誰とやりった」
「せよ!」
悠君は父親のを激しく振り払った。その瞳には、かつての理科準備で、私が健君の瞳のに見たものと全く同じ、世界に対する敵と信がギラギラと渦巻いていた。
「誰ともやりってねえよ! うるせえな、ほっとけよ! がねえなら当くらい自分でやるから、救急箱の所だけ教えろよ!」
「悠!」
健君が歩にようとした、悠君のたい線が、私の顔を捉えた。
は私をの先から爪先まで値踏みするように見つめ、唇の端を歪めて吐き捨てた。
「……何だよ、このババア。誰?」
「悠、の利き方に気をつけろ」
「いいだろ別に。客か? こんなボロに、綺麗なババアが何の用だよ」
鋭利な刃物のような言葉が、容赦なく私の胸に突き刺さる。
だが、痛むどころではなかった。
このの荒んだ空気、父親に向ける剥きしの苛ち、そしての痛みに唾を吐きかけるような投げやりな態度。
それは、かつて学代の健君が、私に向けていたものそのものだった。
「悠君……」
私がわず声をかけると、は舌打ちをして、プレハブの奥のロッカーを蹴りばすようにけた。から消毒液のボトルを乱暴に引っ張りすと、父親にも私にも背を向け、そのままプレハブをてってしまった。
の敷を、擦り切れたスニーカーの音を引きずりながらざかっていく。
残されたプレハブのには、再び苦しい静寂が落ちてきた。