"教室の最後列に座る元教員" 第4話
それを失っているのは、あなた自なのよ!」
健の呼吸が止まった。
彼は見いた目で私を凝し、やがてその唇を噛み切らんばかりにく結んだ。
拳を握りしめ、全を刻みに震わせていた。
「……どうせ」
絞りすような、掠れた声だった。
「どうせ俺のことなんか、最初から疑ってたんだろ」
「君」
「あんたらいつもそうだ。何かありゃ、全部俺のせいにする。……もういいよ」
彼はそれ以、弁をしなかった。どんなに問い詰めても、ただの点を見つめたまま、度とをかなかった。
私は彼を帰宅させ、週けの曜に保護者を交えて再度話しうことを決めた。警察に届けるに、自させることが教育配慮だと、本気でい込んでいた。
だが、真実はあまりにも無慈な形で、私の目のに突きつけられた。
翌週の曜の朝。
クラスで最もおとなしく、美化委員を務めていた女子徒が、泣きながら私の元へやってきたのだ。
彼女の震えるには、あの茶封筒が握られていた。
「ごめんなさい……ごめんなさい、柴田先……」
彼女は過呼吸を起こしそうなほど激しく泣きじゃくりながら告した。
母親の財布からおを盗んだと疑われ、をびしたいで、曜の放課、いていた職員の引きしから衝に封筒を抜き取ってしまったのだと。
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だが、週末のに恐ろしくなり、もできずに返しに来たのだと。の万千円は、円も使われていなかった。
職員のえ切った空気ので、私はち尽くした。
のが真っになった。
あのの健の顔。
『どうせ俺のことなんか、最初から疑ってたんだろ』
その言葉が、の奥で轟音となって鳴り響いた。
私は違えたのだ。
教育者として、もっともやってはならない、偏見による断罪をったのだ。
すぐにでも全徒ので、いや、せめてクラス全員ので、健の無実をらさなければならなかった。彼にくをげ、私のい込みであったことを謝罪しなければならなかった。
だが――私にはそれができなかった。
当、私は教昇任の試験を控えていた。学主任としての指導力、クラスの統率力を問われるな期だった。
「徒を根拠もなく犯扱いし、追い詰めた」という事実が公になれば、私の築きげてきたキャリアに傷がつく。それ以に、告してきた女子徒の将来をどう守るのかという『教育な配慮』が、私にとって都のいい言い訳になった。
「君だけを呼んで、内々に謝罪し、誤解を解くのが番傷が浅い」
学団の会議で、私はそう主張した。の教員たちも、厄介事を公にしたくないで、私の見に同調した。
放課、私は健を暗い理科準備に呼んだ。
薬品のツンとした匂いが漂う部で、私は彼に向きった。
「君。おは見つかりました」
健は無表のまま、私を見ていた。
「別の徒の違いでした。……先の勘違いだったわ。そのことについては、謝ります。悪かったわね」
私は形式通りの会釈をした。
そして、信じられないことに、こう付け加えたのだ。
「でもね、君。あなたの頃のいが、疑いを招いたのも事実なのよ。これからは誤解されるようなは慎みなさい。いいね?」
自分の保を、最まで『指導』というオブラートで包み隠した。
健は、私を見つめていた。その瞳には、りすら浮かんでいなかった。ただ底れない、たい軽蔑だけがあった。
「……もう、いいっすか」
彼はそれだけ言うと、準備をていった。
翌から、健は学に来なくなった。
庭訪問をしても、ドアの向こうから応答はなかった。母親に話をしても、「あの子のことはもう分かりません」と力なく切られた。
休みがけ、学期の始業式。
彼の机のには、何も置かれていなかった。
健は、そのまま自主退学の形で学をった。
彼がその、どのようなを歩んだのか、私はろうとしなかった。るのが怖かったのだ。の噂で、建設現の作業員になったとか、夜のに消えたとか、断片な話を聞くたびに、私はを塞いだ。
私はその、予定通り教になり、別の学でを務め、何事もなかったかのように定を迎えた。