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"「この子は俺の子じゃない」" 第8話

葵は怯えなかった。 以の葵なら、私の激昂を見ればさく丸まって謝っていただろう。 だが、今の葵は、点滴の管を揺らしながら、まっすぐに私を睨み返してきた。

「頼んでないよ」

たく、乾いた声だった。

「……何?」

「頼んでない。偽腹を巻いてくれなんて、度も頼んでない! 会社に嘘をついて産休を取れなんて、誰も頼んでないよ! 全部……全部お姉ちゃんが勝にやったんじゃない!」

葵の言葉は、私の胸の最も急所を抉り抜いた。

「お姉ちゃんは、私を助けたかったんじゃない。子供が欲しかっただけでしょ?! 自分が産めないから、私の子供を奪おうとしただけでしょ! 『葵のため』なんて言わないでよ! 気持ち悪いんだよ!!」

「葵ッ!!」

私はを振りげていた。 理性が完全に焼き切れていた。 このカの私の苦しみ、恥、努力、絶望、そのすべてを「気持ち悪い」の言で片付けられたことに、殺にいが爆発した。

平打ちを葵の青い頬に叩き込もうと、腕を振りろした瞬。

――パァンッ!!!

乾いた、凄まじい破裂音が部に反響した。

衝撃は、私の頬にっていた。

界が激しく回転し、私はテーブルの角に腰をしこたま打ちつけながら、そのに崩れ落ちた。 のに、鉄のが広がった。 切れた唇から血が滲みているのが分かった。

頬が、焼けるようにい。

「……え……?」

私はにをついたまま、呆然と顔をげた。

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私の目のにっていたのは、母だった。

母は振り抜いたを震わせたまま、肩で激しい息をしていた。 その顔は、私がきてきて、度も見たことがないほど険しく、歪んでいた。 しみと、羞恥と、そしてが子に対する底なしの軽蔑が、母の顔を般若のように変えていた。

「お……お母さん……?」

「恥をりなさい」

母の声は、震えていた。 だが、その言には、部の空気を完全に凍りつかせるだけのみがあった。

「あんた……妹に何てこと言ってるの。おをした? 偽腹を巻いて耐えた? ……それが何だっていうのよ」

母の目から、粒の涙がボロボロとこぼれ落ちた。

「あんたがやったことはね……親切でも何でもない。ただの、盗だよ」

ごうとう。 その文字が、私のので反響した。

「子供が授からなくて辛かったのは分かる。健太さんに申し訳なかったのも分かるわよ。でもね、紗枝……の腹から命を買い取って、自分の嘘で塗り固めて、それを『族の絆』だなんて……そんなおぞましいこと、よくもまあカも平気な顔で続けられたわね!」

母は胸元をかきむしり、泣き崩れそうになる体を、壁にをついて支えた。

「私の育て方が違ってたんだわ……。あんたをこんな、のを踏みにじるような化け物に育ててしまったなんて……お父さんに……んだお父さんに、わせる顔がないよ……!」

母がそのに泣き伏した。

私は、何も言えなかった。 頬の痛みよりも、母から向けられた「化け物を見る目」が、私の全の骨を々に砕いていくようだった。

義母が、静かにバッグを肩にかけた。 その顔には、もうりすら残っていなかった。ただ、汚物に触れてしまったのような、徹底な拒絶のだけがあった。

「帰りましょう、お父さん」 義母は健太にも、私にも線をわせず、義父の腕を取った。 「ここにいたら、がおかしくなりそうだわ」

義父は無言のまま、踵を返した。 ドアノブにをかけた、義父は度だけを止め、背越しにく言い放った。

「健太。おがその女とどうするかは、自分で決めろ。だが……度と、うちの敷居を跨がせるな」

バタン、と。 いドアが閉まる音がした。

義両親の音が、廊の向こうへとざかっていく。

部に残されたのは、に泣き崩れる母と、点滴スタンドを握りしめたまま息を切らす葵。 そして、私からくれた所で、ただ呆然とち尽くす健太だった。

私はのに散らばったシリコンの腹を見た。 丸く、滑らかで、決して血の通うことのない、たいゴムの塊。

私はカ、これをしていたのだ。 これを抱きしめて眠り、これに話しかけ、これを自分の体の部だと信じ込もうとしていた。

その歪んだ執着のすべてが、今、のに晒されていた。

健太が、ポケットから何かを取りした。 そして、カツンとさな音をてて、テーブルのに置いた。

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