"祖母は十二年年賀状を書いてない" 第14話
伯父さんも母も、縛りに遭ったようにきが取れない。
「来やしないでしょう!」
叔母さんのが、テーブルののノートを激しく叩いた。
「『淳子さん、あんなに優しかった母さんがそんなことするはずないわ、あなたの接し方に問題があるんじゃない?』……そうやって、全なくから、正論という名のナイフで私を滅刺しにしただけよ! あなたたちが本当に守りたかったのは母さんじゃない! 『自分たちは親を切にしている、京で成功した派な子供だ』という、っぽい自己満だったんじゃないですか!」
「な……何を無礼なことを……!」 男伯父さんが顔を真っ赤にして鳴り返そうとした。
「無礼なのはどちらですか!」
叔母さんの声が、伯父さんの声をねじ伏せた。
「、毎元旦に届くあの賀状。……あなた方、本当に母さんがいたとってんでいたんですか?」
叔母さんは酷な笑みを浮かべた。 その瞳が、を逃げのない檻のに追い詰めていく。
「違うでしょう。あなた方はね、あの葉を待っていたのよ。元旦の朝、ポストをけて、あの『元気にしています』というたったを見た瞬、胸の奥でホッと息を吐いていたはずよ。『ああ、今も母さんは元気だ。だから私は、崎に帰らなくていい。自分の仕事を優先していい。温泉旅にっていい。
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親の面倒を見なくていい』ってね!」
母の顔から、完全に血の気が引いた。 呼吸が浅くなり、胸元を掻きむしるようにして固まっている。
「あの賀状は、母さんのじゃない。あなたたちが親孝の義務から逃げすために、喉からがるほど欲しがっていた『免罪符』だったのよ! 違いますか!?」
痛々しいほどの静寂が、茶のを覆い尽くした。 台所の換気扇のファンが回る音だけが、虚しく響いている。
反論できるは、このにもいなかった。 叔母さんの言葉は、あまりにも正確に、彼らの無識の欺瞞をえぐりしていたからだ。
毎正に届く、代わり映えのしない。 それに違を抱かなかったのではない。 違を抱いてしまったら、目のの平穏な活が壊れてしまうから。 崎の実で起きているかもしれない々しい老いと介護の現実に、向きわなければならなくなるから。
だから、信じたのだ。 いや、「信じたふり」をして、疑問のすべてをの奥底に押し殺していたのだ。
「……でも」
に、消え入るような声が響いた。 母だった。 母は畳に涙を落としながら、それでも最のプライドを保とうと、震える声で絞りした。
「……でも、淳子さん。それならどうして……どうしてお母さんに相談しなかったのよ。お母さんは……お母さんは、自分の名で勝にそんな嘘がされてたこと、らなかったのよ? さっきだって、料亭で『もいてない』って……」
「ってたよ」
乾いた、い声が、部の隅から割り込んできた。
全員の線が、壁際へと向かった。
祖母だった。 祖母は湯呑みを畳のに置き、曲がった背をぎしぎしと軋ませながら、ゆっくりと正座し直していた。 その瞳には、先ほどまでの虚ろな霞はなかった。 恐ろしいほどに澄み切った、しかしい絶望を湛えたが戻っていた。
「お母さん……?」 母が息を呑んだ。
祖母は、皺だらけの両を膝のに揃え、じっと自分の指先を見つめていた。
「ってたよ。……全部、ってたよ」
祖母の声は、く、かすかに震えていた。
「毎、正のかになると、男や恵子から話がかかってきた。『お母さん、今も綺麗な字の賀状をありがとう』って。『元気そうでしたよ』って。……私が文字もいてないのに、そう言われるんだ。らないわけが、ないだろう」
男伯父さんが、息を詰まらせた。 「じゃ、じゃあ母さん……なぜ……」
「言えるわけがないだろう!」
祖母が顔をげた。 その目から、粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。 のをきてきた老の、張り裂けんばかりの慟哭だった。
「言えるわけがないじゃないか! 『あれは私がいたんじゃない、私はもう字もけない、飯も炊けない、オムツを汚すだけの来損ないのババアになっちまったんだ』なんて……京で派にやってるあんたたちに、言えるわけがないだろう!」