"祖母は十二年年賀状を書いてない" 第13話
伯父さんの線が、叔母さんを射抜く。
「をかけた鍋を忘れてを徘徊するなんて、派な度の認症じゃないか。歩違えば命に関わっていたんだ。……なぜ、ここまでするに、俺たちにらせなかった?」
母もを挟んだ。 涙声を作りながら、しかし言葉の底には鋭い棘を潜ませている。
「そうよ、淳子さん。私たち、ずっと信じてたのよ。毎届く賀状を見て、『お母さんはでしっかり暮らしてるんだ、淳子さんたちがちゃんと見守ってくれてるんだ』って、しきってたのよ。……それを、こんなになるまで隠し通すなんて、あまりにも誠実じゃない!?」
「誠実?」
私がをきかけた瞬、淳子叔母さんが制するように私の膝にを置いた。 叔母さんは、ゆっくりと顔をげた。 その目には、朝の作業で浮かべていた虚無は消えていた。 代わりに宿っていたのは、すべてを終わらせる覚悟を決めたの、研ぎ澄まされた気だった。
「男さん。恵子さん。誠実とおっしゃいましたね」
叔母さんは、元に置いていたきなトートバッグを引き寄せた。 から取りしたのは、朝、私が作業で見せてもらった『母さん 誌』とかれた学ノート、そして、分いクリアファイルだった。
ドサリ、とい音が円卓のに響いた。
「これを見てください」
叔母さんはノートをき、の方へ滑らせた。
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「これは、私が過、毎つけてきた記録です。お義母さんの血圧、用した薬、排便の無、そして、々の言のすべてです」
男伯父さんが眉をひそめ、恐る恐るノートに目を落とした。 母もを乗りす。
「、お義母さんがので転倒して軽い脳梗塞を起こした……私はおに、話をかけましたよね?」
叔母さんの声は、静かだった。叫びもせず、震えもせず、ただ事実を淡々と積みげていく。
「男さん、あの何とおっしゃいましたか? 『今、会社の公共事業の入札でどうしても横浜をれられない。すまないが、費用はし包むから現で何とかしてくれ』……そうおっしゃって、現留で万円を送ってこられましたね」
伯父さんの顔が、ピクリと痙攣した。
「恵子さん。あなたは何と言いましたか? 『娘の学受験の直で、ピリピリしててを空けられないのよ。お母さんのこと、番頼りにしてるからね。何かあったらすぐ連絡して』……そう言って、座の名のパウンドケーキをひと箱、送ってこられましたね」
母の唇が震え、言葉を失った。
「おとお菓子。それが、おがこのでしてくださった『介護』のすべてですよ」
叔母さんはクリアファイルをいた。 には、びっしりと領収と診療細が代順に綴じられていた。
「週に回の通院。
お義母さんは病院を嫌がって暴れるから、毎回に乗せるだけでかかりました。待で粗相をして、の患者さんにをげてを拭いたことも度や度じゃありません。科、科、形科、脳神経科。すべて私が仕事をやりくりして連れてきました」
叔母さんはページをめくる。
「認症がんで、夜に突然『棒が入った!』と叫んで話をかけてくる。夜の、に、とでパジャマのままをらせて駆けつけた夜が、何あったといますか? 私が買ってきた惣菜を『毒が入ってる』と言ってゴミ箱にぶちまけられたが、何あったといますか!?」
「淳子、もういい……もうやめろ……」 叔父さんが顔を覆い、呻くように言った。 だが、叔母さんは止まらなかった。
「いいえ、やめません! 今言わなければ、私は、このたちに『母さんをネグレクトした悪者』に仕てげられる!」
叔母さんの瞳から、ついに筋の涙が零れ落ちた。 だが、それはしみの涙ではなかった。 分の屈辱と孤独を焼き尽くすような、憤の涙だった。
「おはさっき、『なぜらせなかった』と言いましたね。……らせたら、どうしてくれたんですか!?」
叔母さんはちがらなかった。 しかし、その声は円卓を揺るがすほどの圧力を放っていた。
「もし私が『お義母さんが認症で、夜に徘徊して、便を壁に塗りたくりました』と話したら……あなた方、横浜や京から、毎週オムツを替えに帰ってきてくれたんですか!?」