"祖母は十二年年賀状を書いてない" 第7話
「どうでもよくないよ」 私は祖母のに正座し、そのさくなった肩を見つめた。
「お母さんと男伯父さん、今の午、淳子叔母さんを問い詰めるつもりだよ。『を使い込んでいたんじゃないか』『母さんを脅してたんじゃないか』って。……おばあちゃん、叔母さんはそんなことするじゃないでしょ?」
祖母は唇を真文字に結び、顔を背けた。 答えない。 その沈黙が、私にはもどかしく、そしてしかった。
「おばあちゃん、教えて。、番最初に字がけなくなった、本当は何があったの?」
「……らないよ」
「おばあちゃん!」
「らないと言ったら、らないんだよ!」
祖母はちがろうとして、元をふらつかせた。 私は慌ててその体を支えようとしたが、祖母はそのをたく振り払った。
「帰っておくれ、茜。京のあんたには関係のないことだ。……あっちへっておくれ!」
祖母は覚束ない取りで奥の寝へ入り、襖を乱暴に閉めてしまった。 内側から、ピシッとさな鍵がかかる音がした。
私は、暗い仏に取り残された。 壁の古計の振り子の音だけが、コチ、コチとく響いている。
拒絶された痛みが胸を刺した。 祖母は、守ろうとしているのだ。 自分の最のプライドを。そして、壊れかけた族の形を。 真実をのに晒すことよりも、嘘のまま蓋をして、自分が悪者になってでも波をてずにやり過ごすことを選ぼうとしている。
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でも、その皺寄せは全部、くでをかぶってきた淳子叔母さんのに向けられているのだ。 それだけは、どうしても見過ごすわけにはいかなかった。
私は仏を見渡した。 のの脇に置かれた、黒漆塗りの古い文机。 祖母が嫁入り具として持ってきたもので、昔はここで計簿をつけたり、方の親戚にをいたりしていた所だ。
私は吸い寄せられるように文机へ歩み寄った。 引きしをける。 番の段には、使い古された老鏡と、乾ききった朱肉、メモ帳。 段目には、領収や医療関の診察券。 そして、番のい引きしの奥に、茶いに包まれた、古い角缶が押し込まれていた。
加煎餅の空き缶だった。 蓋をけると、にはぎっしりとや類が詰まっていた。 祖父の古い帳。 私や従兄弟たちが幼い頃に送った、拙い絵葉。
その番底に、輪ゴムで束ねられた数枚の賀状の「き損じ」があった。
私は息を呑み、その束を引っ張りした。 番にあったのは、今からちょうど――〇のの消印用の賀葉だった。
裏面を見て、私の指先が止まった。
そこには、祖母の懐かしい跡があった。 だが、文字はひどく歪んでいた。 『あけましておめでとうございます』というは、へくほど激しく波打ち、最の『す』の文字は、ペンの先がを突き破って引き裂かれていた。
そして、そのにこうとしたのだろう。 『元気に』という文字の途で、黒いインクではなく、祖母が昔から用していた赤ペンのインクが、丸くきく滲んでいた。
それは、滴の跡だった。 が波打ち、赤いインクがじわじわと周囲に広がって、乾いた跡。
涙だった。 の、この机に向かい、震えるでペンを握り、どうしても文字もまともにけなくなった祖母が、悔しさと絶望ので零した涙の跡だった。
葉の余には、まるで子供が癇癪を起こしたかのように、ペンの先で何度も何度も突かれた無数の穴が空いていた。
「……おばあちゃん」
声が震えた。 胸が締め付けられるように痛かった。
誰にも音を吐けず、暮らしので、自分の体が壊れていく恐怖と戦いながら、それでも子供たちに「元気だ」と伝えようとして、けなかった夜。 その絶望のさが、のを超えて、のから私の指先に々しく伝わってきた。
私はそのき損じの葉を枚だけ抜き取り、胸のポケットに滑り込ませた。 そして、音をてないように玄関をた。
次に向かったのは、実からで分ほどの所にある、叔父さんの集荷だった。 兼業農である叔父さんたちが、隣の契約農から野菜を集め、スーパーのインショップや直売所向けに分けしてパッキングするためのトタン根の作業だ。