"祖母は十二年年賀状を書いてない" 第6話
へと都よくすり替えていた。
自分たちが、母の跡が変わったことすら気付かなかったという決定な過失。 それを直しないためには、淳子叔母さんを「老親を囲い込み、族を騙していた悪者」に仕てげるしかなかったのだ。
「……茜、何ボーッとしてるのよ」
話を切った母が、苛ちを隠そうともせずに私を睨みつけた。
「あんたも余計なことしてくれたわね。あんなアルバムなんかわざわざ作らなければ、今はお母さんの歳をみんなで気持ちよく祝って、何事もなく京に帰れたのに」
その言を聞いた瞬、私の胃の底がギュッと収縮した。
「……余計なこと?」
「そうよ。親孝のつもりだったんでしょうけど、族の空気を壊してどうするの。あんなの、ただの自己満じゃない」
母は吐き捨てるように言って、洗面所へと向かった。 蛇をひねる激しい音が響く。
私は両を膝のでく握りしめた。 りというより、い吐き気が込みげていた。 母たちがっているのは、祖母が嘘をつかれていたことではない。 自分たちが守り続けてきた「私たちはくれていても、仲が良くて親孝な族だ」という、綺麗で無傷な板にを塗られたことに対してっているのだ。
眠れるはずもなかった。 私はベッドに潜り込み、暗ので井を見つめながら、拳を握り続けた。
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の午、母と男伯父さんは親戚同を引き連れて、本で叔母さんを吊しげるつもりでいる。 そのに、私にはどうしても確かめなければならないことがあった。
あののアルバムを作った責任が、私にはあった。 何より、料亭をっていくときの淳子叔母さんの、あの絶望しきったたい瞳を、そのままにして京へ帰ることなどできなかった。
翌朝、午。 母がまだ寝息をてている隙に、私はホテルの鍵をフロントに預け、レンタカーに乗り込んだ。
初の朝の空気はひんやりとしていて、榛名の輪郭が青い空にくっきりと浮かびがっていた。 内からをへらせること分。 見慣れた田園景の奥に、祖母がで暮らす平の本が見えてきた。
庭の隅には、昔祖父が建てた農具。 庭菜園の棚には、支柱に絡みついたトマトの蔓が、茶く枯れかけて垂れがっていた。
をめ、玉砂利を踏んで玄関へ向かう。 引き戸には鍵がかかっていなかった。
「……おばあちゃん?」
声をかけながらがり框につと、線の匂いと、古い畳の湿った匂いがをついた。 奥の仏から、カチ、カチとさな属音が聞こえる。
暗い部の真んで、祖母が、座布団のに座っていた。 昨につけていたのれ着ではなく、着古した紺のかすりの着を羽織り、仏壇に向かってをわせている。
「おばあちゃん、茜だよ」
祖母はゆっくりと振り返った。 その顔を見て、私は息を呑んだ。 晩で、まるで歳もを取ったかのように、頬の肉が削げ、目の周りには黒ずんだ隈が浮かんでいた。
「……茜かい」
祖母の声は、掠れてさかった。
「朝くから、どうしたんだい。……男や恵子は、緒じゃないのかい」
「うん、で来たの。……おばあちゃん、体は丈夫? 昨は、あんなことになって……」
祖母は線を伏せ、膝のでねた自分のをじっと見つめた。 そのは、刻みに、しかし絶えなく震えていた。 パーキンソン病や脳の障害ではない、特発性震顫と呼ばれる老性の震えだ。度震え始めると、本の志ではどうにも止まらない。
「丈夫も何もないよ」 祖母は力なく笑った。自嘲の混じった、乾いた笑いだった。
「みっともないところを、孫に見せちまったねぇ。……茜、あのアルバムは、持って帰りなさい。あんなもの、仏壇のに置いとくのも恥ずかしいよ」
「恥ずかしくなんかないよ。あれは……」
「恥ずかしいよ!」
祖母がに、鋭く声を荒らげた。 だが、その声はすぐに震え、さく萎んでいった。
「頼むから、もう何も掘り返さないでおくれ。……誰がいたとか、何が嘘だったとか、そんなことどうでもいいじゃないか。私はもうだ。あと何きるかもわからない寄りなんだよ。これ以、子供たちや淳子さんが揉めるのを、見たくないんだ……」