"祖母は十二年年賀状を書いてない" 第3話
。 干支がひと回りする、私たちは毎元旦にこの葉を受け取っていた。 元気にしている。畑仕事をしている。何も配いらない。 その言葉を信じて、疑いもせず、「おばあちゃんは元気だ」としきっていた。
それが、全部、祖母のによるものではなかった?
「……じゃあ、誰がいたのよ」
母の声が、段くなった。 親族たちの線が、ざわざわと宙を泳ぎ始める。 誰かの悪戯か。それとも何かの違いか。 だが、消印はすべて実の最寄りの崎郵便局のものだ。 差の所も、祖母のむ実の所。 そして何より、族しからないはずの「裏の畑のトマト」のことが、毎のようにき添えられている。
実の郵便受けにアクセスでき、祖母の況をり、毎に賀状を買って投函できる。
座敷の線が、ゆっくりと、しかし確実に、ひとつの方向へと集まり始めた。
座の華やかな親戚たちから番い所。 障子のすぐ脇、料理の配膳に番い座に座っていた女性。
次男の妻、淳子叔母さんだった。
叔母さんは、仕てのいいを着た母や伯母たちとは対照に、な紺のブラウスを着ていた。 宴席が始まってからというもの、度も腰を落ち着けることなく、空いたグラスをげたり、仲居さんから料理を受け取って親戚たちに配ったりしていた。
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今も、にはおしぼりの入った籠を持ったままだ。
その叔母さんが、ぴたりときを止めていた。
母が、座布団から膝を乗りした。 その目は、女特の、内を追及するときの鋭いを帯びていた。
「……淳子さん」
叔母さんは顔をげない。 俯いたまま、膝のでおしぼりの籠をく握りしめている。
「淳子さん、あなたなの? この賀状をいたの」
母の詰問に、座敷の誰もを挟まなかった。 男伯父さんも、腕を組んで険しい顔で叔母を睨みつけている。 叔母の夫である叔父さんだけが、居悪そうに「おい、淳子……」と々しく声をかけたが、叔母はかない。
「答えなさいよ、淳子さん!」
母の声が、ついに座敷の静寂を破って鋭く響いた。
「これ、あなたが勝にお母さんの名を使って、も私たちに嘘をつき続けてたってこと!? なんでそんなことしたの? お母さんの体が悪かったなら、どうして私たちに本当のことを言わなかったのよ! 毎毎『元気です』なんて嘘の葉を送って……私たちを騙してたの!?」
「そうだぞ、淳子さん」
男伯父さんもを乗りした。会社経営者特の、相を威圧する声だった。
「これは過できないよ。母さんの体のことは、男である俺にもる権利がある。字がけないほどが悪かったなら、なぜ相談しなかった? まさかとはうが、母さんがってるのをいいことに、俺たちに実の状況を隠して、何か都の悪いことでもあったのか? 通帳やはどうなってるんだ」
矢継ぎに浴びせられる言葉。 『騙していたのか』 『なぜ隠した』 『都の悪いことでもあるのか』
それは、親を配する子供の言葉の形を借りていたが、その実、自分たちがも親の異変に気づかなかったという恥と罪悪を、すべて目のの「姓の嫁」に擦り付けようとする、醜い自己防の響きを孕んでいた。
私は息が詰まりそうだった。 お祝いのはずだった。んでもらえるはずだった。 私が作ったこのアルバムが、今や叔母さんを断罪するための証拠品のように、座敷の真んに晒されている。
「叔母さん……」
私がわず声を漏らした、そのだった。
カタン、とい音がした。
淳子叔母さんが、に持っていたおしぼりの籠を、畳のに置いた音だった。 乱暴に投げしたわけではない。 しかし、その作には、今まで親戚同に対して見せていた卑屈なまでの従順さが、微も残っていなかった。
叔母さんは、ゆっくりと顔をげた。 泣いているかとった。 だが、違っていた。
叔母さんの目は、乾ききっていた。 分のをみ干してきたような、え切った、暗いが宿っていた。
その唇の端が、わずかに吊りがった。 笑だった。
「……騙した、ですか」
叔母さんの声は、驚くほど静かだった。 だが、よく通った。座敷の隅々にまで、染み渡るように響いた。