"一万八千円の伝票" 第23話
だが、支配による極端で劣悪な材費の削減や、レトルト品の導入に激しく抗議した結果、方に当解雇されていたのだ。
その松島さんのろには、彼の腕と柄を慕ってホテルをっていった、かつての熟練の従業員たちの姿があった。 そして――その列の最尾には、今朝、タクシーで見送ったはずの、あの婚式の老夫婦、渡辺さんご夫妻が静かにっていた。
は幽霊でも見たかのように、ガタガタと震えながらずさりした。
「な……なぜだ……!? 辞めたおたちが、なぜここにいる……!?」
「私がお呼びしたのですよ、さん」
私は歩にて、静かに告げた。
「今朝、林先に証拠をお送りした、松島さんたちにも連絡を取らせていただきました。夫がしたこの所の、本当の『終わり』と、そして『始まり』を、共に見届けていただくために」
ロビーはを打ったような静寂に包まれた。 逃げを失ったが、居悪そうにを縮め、の腕にすがりつこうとした。
「ち、ちょっと支配! 何なのよこの集まり!? お葬式みたいで気が悪いわ! こんな茶番に付きう必ないじゃない、く逃げましょうよ!」
彼女がを引っ張ってへ向かおうとした瞬、林弁護士が氷のようにたい声で制した。
「お帰りになられても構いませんが、にはすでに、県警本部の捜査課の警察官が待していますよ」
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のが、ピタリと止まった。
「業務横領および詐欺の疑いで、すでに令状の請求続きがめられています。今ここから逃を図れば、即座に緊急逮捕となるだけですが、それでもかれますか?」
その宣告に、の顔から血の気が完全に引いた。 先ほどまでのふてぶてしい態度は消え失せ、膝がガクガクと震えて、そのに崩れ落ちそうになっていた。
「さあ……ち話も何ですから、レストランへ移しましょう」
私はに向き直り、静かに促した。
「さん、さん。あなた方には……昨、私が座らされた、あの隅のテーブル席に座っていただきます。私が、このホテルでの『最の晩餐』をご注文いたしましたから」
はもはや、拒絶する気力すら残っていなかった。 林先と元従業員たちに見守られながら、はまるで刑台へと向かう罪のように、い取りでレストランへと連されていった。
内には、林さんをはじめとする若い現役スタッフたちと、松島板らベテランの元スタッフたちが静かに集まっていた。 林さんは松島板の温かい笑顔を見て、張り詰めていた糸が切れたように涙ぐんでいる。老夫婦は厨へ向かう松島板の背に向けて、々と謝の礼を捧げていた。
誰も鳴り散らしたりはしなかった。罵詈雑言を浴びせる者もいない。
だが、そのに満ちていたのは、裏切りに対するな失望と、静まり返った徹なりだった。その無言の圧が、央のテーブルに座らされたとの全を苛んでいた。
松島板は無言のまま、かつての自分のであった厨へとを踏み入れた。 現の若い調理スタッフたちが、吸い寄せられるようにその背を追う。
数分――。 厨の奥から、ふわりと、どこか懐かしく、胸の奥を締め付けるような芳が漂ってきた。 昨まで内に充満していた、あの無質なレトルト品の脂臭い匂いとは根本から異なる、厳選された鰹節と利尻昆布から丁寧に引かれた、みのある優しい汁のり。
それは、夫が、毎朝番に厨へを運び、板と共にを確かめていた、このホテルの「命」そのもののりだった。
やがて、林さんがお盆を両でしっかりと抱え、震える取りでのテーブルへと運んできた。 運ばれてきたのは、つの黒塗りの御膳だった。
ことり、とテーブルのに置かれ、お椀の蓋がけられる。 ちるい湯気と共に、豊かなりがパッと広がった。 艶やかに炊きげられたご飯のには、美しくごしらえされた旬のの幸との幸が、目にも鮮やかに散りばめられている。
これこそが、メニュー表に誇らしげに記されていた、本来の「千百円の季節の炊き込みご飯御膳」