"一万八千円の伝票" 第13話
「い、いいえ! 滅相もございません! トラブルなどでは断じて!」
支配は態度を変させ、慌てふためいておじいさんのクレジットカードを押し返した。
「こちらの……清掃スタッフの連絡ミスでして! ワインの件は私の勘違いでございました! 追加の料は切結構ですので! どうぞ、お気をつけてお帰りください!」
先ほどまでの傲で酷な態度はどこへやら、は揉みをしながら脂汗を浮かべ、老夫婦を追い払うようにへと促した。 訳も分からぬままカードを受け取ったおじいさんは、堵と恐怖の入り混じった顔で、おばあさんのを引いて逃げるように歩きした。
私は静かに柱のをれ、ホテルの除ので、おのにそっとち塞がった。
「……あの、しだけお待ちいただけますでしょうか」
突然声をかけられた老夫婦は、ビクッと体を張らせ、怯えた目で私を見つめた。また何か追加の料を請求されるのではないかと、構えているのが痛いほど分かった。
「驚かせてしまってごめんなさいね。私は、このホテルのではありません」
私はできる限り柔らかな声で微笑みかけ、バッグから清潔なハンカチを取りしておばあさんに差しした。
「……婚式の記のご旅だと伺いました。せっかくのれのに、あんな恐ろしい、嫌ないをさせてしまって……本当に、申し訳ありませんでした」
広告
私が々と、に届くほどをげると、おばあさんの瞳から粒の涙がポロポロと零れ落ちた。
「どうして……どうしてあなたが謝られるのですか……?」
「私……昔のこのホテルが、好きだったのです。からのおもてなしを誇りにしていた、あの頃のこの所を、よくっているから……」
私の言葉に、俯いていたおじいさんが、ゆっくりと顔をげた。その瞳には、い愁が宿っていた。
「……実は、私たちもね。に度、婚旅のいを辿って、ここへ泊まったことがあるんですよ」
おじいさんはいを懐かしむように、細めた目を窓のに向けた。
「あの頃は、本当にさな古いお宿でした。でもね、当のご主が本当にの温かいお方でねぇ……。砂りののにずぶ濡れで到着した私たちを、玄関先で温かいお茶と、乾かしたばかりのふかふかのタオルで迎えてくださったんです。あのののこもったおもてなしがどうしても忘れられなくて……の節目に、もう度だけあの温もりに触れたくて訪れたのですが……」
おじいさんの声が、悔しさに震えた。
「すっかり、変わってしまったのですね。……もう度と、ここへ来ることはないでしょう」
その言葉が、私の臓をく、く貫いた。 夫が命を懸けて切にしてきたお客様を、こんなにもいしみと絶望に染めて帰らせてしまった――。
申し訳なさと悔しさで、胸が張り裂けそうだった。
私はポケットから、夫の万とさなメモ帳を取りした。
「おじいさん、おばあさん。……躾なお願いですが、どうか、お名とご所を教えていただけないでしょうか」
が怪訝そうに私を見つめる、私は真っ直ぐにの瞳を見つめ返した。
「お約束します。このホテルは、必ず……あなた方がしてくださった、あの温かい、本物のおもてなしの宿へとまれ変わらせます。ですから……そのが来たら、もう度だけ、私にチャンスをいただけませんか? 必ず、本当のおもてなしでお迎えいたしますから」
私の嘘偽りのない真剣な差しを受け止め、おじいさんは微かに目元を緩めると、震えるで万を取り、メモ帳に丁寧に所と名をき記してくれた。 『渡辺 誠・千代』――。
私はその片を、宝物のように両で胸に抱きしめた。 おがタクシーに乗り込み、窓からさくを振ってりっていくのを、私は朝のたいのにち尽くし、が見えなくなるまでくをげて見送った。
呼吸をひとつし、たい空気を肺いっぱいに満たしてロビーへ戻ると、応接セットの革張りソファに支配と田氏が向かいって座っていた。 私はロビーの飾り柱のにを潜め、の会話に神経を研ぎ澄ませた。