"一万八千円の伝票" 第12話
そして、が今った卑劣な偽装作の部始終を、震えるで、文字文字克にき記していった。
黒いインクが、滑らかにを染めていく。 夫が遺してくれたこの万こそが、今や悪を討つための、私の最の武器だった。 窓のが、々とみ始めていた。決戦の朝が、すぐそこまで迫っていた。
の並みから朝の清々しいが差し込み、ホテルのロビーをく照らし始めていた。 しかし、フロントのには、まるで鉛を流し込んだかのような苦しく惨な空気が淀んでいた。
「……ですから! 昨、お部でけられた級ヴィンテージワインの代と、特別へのアップグレード料です! わせて、万円になります!」
カウンターの向こう側で、支配が腕を組み、仁王ちになって威圧な声を張りげていた。その元には、獲物を追い詰めた獣のような、酷で醜悪な笑みが張り付いている。
カウンターのには、あの老夫婦がを寄せってち尽くしていた。 おじいさんは顔面を蒼にし、震える指先で突きつけられた枚の請求を見つめている。おばあさんは恐怖のあまり刻みに肩を震わせ、夫の腕にすがりついていた。
「そ、そんな馬鹿な……! 私たちはワインなんてもんでおりません! 最初から部の隅に空き瓶が置いてあっただけです! それに、特別なんて頼んでもいないのに……!」
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おじいさんが必に訴えかけるが、支配は袈裟に肩をすくめ、たく首を横に振った。
「困りますねぇ。んでいないと仰られましても、現にお部に空のボトルがあったのですよ? 清掃記録にも違いはありません。……もしどうしてもお支払いができないというのであれば、警察を呼んで詐欺として被害届をすことになりますが、よろしいですか?」
「け、警察……!?」
おばあさんが鳴のような息を呑み、絶望に顔を歪めた。 半世紀にわたる夫婦の歩みを祝うための、待ちに待った婚式の記旅。それが今、この男たちの汚い悪によって、無惨にも靴で踏みにじられようとしていた。
私はロビーの柱のでを止め、その景をじっと見つめていた。 まだ、私が割って入るではない。今ここで私が騒ぎてても、は「客同士のトラブル」として誤魔化し、言い逃れを図るだけだ。
支配は、おじいさんの張ったから、引にクレジットカードをもぎ取ろうと太いを伸ばした。
――そのだった。
ウィーン、と音をててホテルの正面自ドアがき、涼やかな朝のと共に、のスーツ姿の男性がを踏み入れてきた。 仕ての良いチャコールグレーのスリーピースに、ピカピカに磨かれた級革靴。そしてその胸元には、見覚えのあるの社章が誇らしげに輝いていた。
都内に拠点を置く、産投資コンサルティング会社の社章だった。
「――失礼。しお話をよろしいですか?」
ロビーに響き渡った落ち着いた声に、クレジットカードを奪おうとしていた支配のきが、ピタリと止まった。 フロントの奥からニヤニヤと様子を伺っていたも、ハッと息を呑んで姿勢を正した。
男性は真っ直ぐにフロントへづくと、内ポケットから名刺入れを取りし、滑らかな作で枚の名刺を差しした。
「京アセットパートナーズの田と申します。支配、本お約束の現察に伺いました」
名刺を受け取った支配の顔から、みるみるうちに血の毛が引いていった。
「あ……た、田様!? 本は、午からのご予定ではなかったはずでは……」
「くまで参りましたので、予定をめて寄らせていただきました。……ところで、そちらのお客様と、何かトラブルでも?」
田氏は鋭いで、涙ぐむおばあさんと、屈辱に震えるおじいさんの姿を交互に見つめた。 資系ファンドへの売りを画策しているにとって、これ以ない最悪のタイミングだった。買収の査定をっている最に、フロントで顧客とのな銭トラブルを起こしている現を押さえられることは、ホテルの資産価値を著しく損ない、売却契約そのものを破談に追い込みかねない致命傷となる。