"一万八千円の伝票" 第9話
「ちょっと! ……あなた、こんな夜に何してるのよ!?」
の刺々しい声が、ロビーの井に甲く霊した。 私はカウンターのから、柱の隙を通してロビーの入り付へとそっと線をらせた。
緑の暗い非常灯ののにっていたのは、昼に私へしいを運んでくれた、あの若い従業員の林さんだった。 彼女は制ではなくな私のパーカー姿で、胸のにさな布製の提げバッグを、まるで自らの命を守る盾であるかのようにく、く抱きしめていた。肩が刻みに、寒さからではなく激しい恐怖によって震えているのが、目からでもはっきりと見て取れた。
「あ……あの、忘れ物をしてしまって……ロッカールームに取りに来ただけです……」
林さんの声は、今にも消え入りそうなほどにか細く、ずっていた。
「ふぅん? まあいいけどさ。さっさと帰ってよね。棒でもされたら面倒だから」
は馬鹿にしたように先で笑うと、ゴミでも見るような酷な線を投げ捨て、再び支配の方へと踵を返した。 バタン、となドアが乱暴に閉まり、カチャリと鍵の掛かる属音がロビーに響き渡る。
そのに残された林さんは、全の力が抜け落ちたように、に崩れ落ちそうになりながらく、荒い息を吐きした。
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元を見れば、履き古したスニーカーの爪先が擦り切れていた。この数、理尽な命令に怯えながら、お客様のためにホテルのを必に駆け回っていたかぬ証拠だった。
私は膝の痛みを堪えながらゆっくりとちがり、フロントカウンターのから姿を現した。
「……林さん」
暗がりのから私が静かに声をかけると、彼女は「ひっ」とい鳴をげてび退き、怯えた物のようにを張らせて振り返った。 しかし、かりのに現れたのが、昼にテーブルで対応した私であると気づくと、彼女はきく丸い目を見いた。
「あ……お客様? ど、どうしてこんなところに……?」
「夜に目が冴えてしまってね。し、ロビーの空気を吸いに来たのですよ」
私は彼女をこれ以怯えさせないよう、できる限り穏やかで、柔らかな声を選んで答えた。 林さんはほんのしだけ胸を撫でろしたようだったが、すぐにハッとしたように顔を変え、血相を変えて周囲を警戒するように線を巡らせた。
「お客様、ここは危険です……! もし支配に見つかったら、何を言われるか分かりません。く、くお部に戻ってください……!」
彼女のさなは、震えを止めることができずにいた。のを本気で案じる、その切迫した瞳。 私は彼女のそばへと静かに歩み寄り、そのえ切ったさなを、私の両で包み込むようにそっと握りしめた。
「……あなたですね。あのを、私の元へ送ってくださったのは」
私の静かな問いかけに、林さんの細い体がビクッとねた。 彼女は息を呑み、信じられないものを見るように、私の顔を凝した。
『どうかホテルを見に来てください。このままでは、潰れてしまいます』
「あのを……療養施設にいた私に届けてくれたのは、林さん、あなたですね?」
その言葉をにした瞬、林さんの瞳から、堰を切ったように粒の涙がボロボロと溢れした。 彼女は泣き声をに漏らすまいと、震える両で必に自分の元を覆い、さく何度も、何度も頷いた。
「オ……オーナー……! 本当に、佐藤オーナーなんですか……!?」
私は力く、優しく頷き返した。 林さんはそのに崩れ落ちるように膝をつき、嗚咽を漏らしながら何度もをげ続けた。
「申し訳ありません……っ! 私……私、何もできなくて……っ! 昔から来てくださっている切なお客様が、目ので騙されて、傷つけられていくのを……ただ見ていることしかできなくて……っ!」
途切れ途切れに絞りされる言葉の端々から、彼女がで抱え込み続けてきた、引き裂かれるような罪悪と悔しさが痛いほど伝わってきた。
「泣かないで。……あなたが勇気をしてをいてくれたからこそ、私はこうしてここへ戻って来られたのですから」
私はバッグから清潔なハンカチを取りし、彼女の濡れた頬をそっと拭った。