"優しい教室で震える息子" 第17話
その顔はまだし青ざめていたが、曜の朝のように掛け布団を被って震えてはいなかった。 ぎゅっと結んだ唇の端に、さな、けれど確固たるが宿っている。
「……うん。くよ」
さく、けれど度も揺らぐことのない声だった。
「怖くなったら、お父さんとお母さんのろに隠れていていいのよ」 私がそう言うと、蓮はゆっくりと首を横に振った。
「隠れない。僕、ちゃんとみんなのにつ。僕が逃げたら、みんなずっと僕のことを『な蓮君』のままにするから」
その横顔を見て、私の目の奥がくなった。 この、息子はただ怯えていたわけではなかったのだ。 自分に被せられた「れな者」という名の分い仮面を、自分ので剥ぎ取るための覚悟を、さな胸ので必に育てていたのだ。
私は通の封筒を、類用の平たいアタッシュケースに収めた。 カチリと鳴った留めの属音が、戦の図のように静かな玄関に響いた。
午分。 緑が丘学の正には、普段の授業参観では見られないほど物々しい板がてられていた。
『令度 文部科学省・教育委員会研究指定事業 徳科公研究授業』 『主題:者をいやり、共にきるを育む学級経営』
をくぐると、スーツ姿の隣の教員や、腕章を巻いた教育委員会の察団が、パンフレットを片に次々と舎へ吸い込まれていくのが見えた。
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昇の脇には、受付用の机が並び、PTAの役員腕章を巻いた母親たちがの良い笑顔で資料を配っている。
そのにいたのは、浅井織だった。 いピンクのツイードジャケットを羽織り、髪を完璧にブローした彼女は、教育委員会の役員らしき初老の男性に々とをげていた。
「ええ、本当に子どもたちが自発に始めたことなんです。今の代、希になりがちな共助の精神が、まさかこんな形でくとは……担任の武田先の温かいご指導の賜物ですわ」
その滑らかな声が、の爽やかなに乗ってに届いた瞬、私の横を歩く雅史の拳がわずかにく握りしめられた。
私たちは受付を通らず、央階段から直接階へとがった。 組の教のには、すでに溢れんばかりのだかりができていた。 廊側に設置された引き戸はすべてされ、教内には保護者席としてパイプ子が何列も並べられている。
教の正面の黒板を見た瞬、私は息を呑んだ。
緑の黒板いっぱいに、チョークで描かれた巨な本の。 太い幹から無数の枝が伸び、その枝先にはピンクの画用で切られた枚のハート型の葉が貼り付けられていた。 ハートの枚枚には、徒たちの名と、蓮に向けたメッセージがびっしりとき込まれている。
『蓮君、ずっと応援してるよ!』 『みんながついてるからね!』 『いつでも頼ってね!』
そして、そのの央には、のチョークで仰々しいタイトルが躍っていた。
『のが紡いだ奇跡――蓮君を包むの』
教の空気が、その異様なモニュメントによって完全に支配されていた。 見学者たちは嘆のため息を漏らし、保護者席の列に陣取った役員の母親たちは、ハンカチで目を押さえる準備をえている。
教壇の脇にっていた武田先は、胸に真っ赤なカーネーションのコサージュを挿し、緊張と揚の入り混じった潮した顔で参観者たちを見回していた。 曜に相談で見せた、あの脂汗を流して狼狽していた男と同物とはえないほど、れがましい「栄の教師」の表だった。 私たちが姿を現したことに気づいた瞬、その顔が瞬だけ張ったが、すぐに「ここには勢の見学者がいる、親が暴挙にられるはずがない」という浅はかな計算が瞳の奥に宿った。
キーンコーンカーンコーン――。
目の始まりを告げるチャイムが、静かに鳴り響いた。
子どもたちがそれぞれの席に着く。 蓮の席――最列、浅井悠君の隣の席だけが、ぽっかりと空いていた。 悠君は誇らしげに背筋を伸ばし、母親である織の線を受け止めて満そうに頷いている。