"優しい教室で震える息子" 第2話
「言わないで! 頼むから、誰も来ないで!」
を爆発させて叫んだかとうと、蓮は布団をから被り直して、激しく咳き込んだ。 その取り乱し方は、単に「親に干渉されたくない」という期の反抗とはらかに違っていた。 触れてはならない致命な秘密を、必で隠そうとしている子供の姿だった。
私は胸を締め付けられるいで子供部のドアを閉め、スニーカーを履いてをた。
の爽やかなが吹き抜ける通学を、私はに歩いた。 周囲には、ランドセルを揺らしながら賑やかに登していく子供たちの姿がある。 あのに、蓮がいるはずだった。 なぜ、うちの子だけが、あんな真っ暗な部で震えていなければならないのか。
宅を抜けた先にある緑が丘学は、創周を迎えるごく標準な公学だ。 鉄筋コンクリートの舎、入れされた壇、グラウンドから響く子供たちの歓声。 どこからどう見ても、平そのものの学び舎だった。
職員の引き戸をけると、独特のとチョークの匂いがをついた。
「あ、野さん! わざわざをお運びいただいて、すみません」
迎えてくれたのは、組の担任である武田先だった。 代半、清潔のある髪にジャージ姿で、いつもハキハキとした体育会系のるい男性教師だ。
広告
保護者からの評判も悪くなく、「で面倒見が良い先」としてられていた。
案内されたさな応接スペースで、私はパイプ子に腰をろした。
「蓮君、朝から起きがれなかったそうで……邪ですか? 今、季節の変わり目で胃腸炎も流っていますからね」
武田先は屈託のない笑顔で、元のメモ帳をきながら言った。
そのあまりにも屈託のない表に、私はわずかな違を覚えた。 蓮の異変は、学側にとっては「ただの体調良」でしかないのだ。
「先、はないんです」
私は背筋を伸ばし、努めて静に切りした。
「体のどこかが痛いわけでもありません。ただ、全を震わせて、学にくのを極端に怖がっています。あんな取り乱し方をしたのは、これまでので度もありませんでした」
武田先の笑顔が、しだけ引き攣った。
「怖がっている、ですか?」 「はい。昨の夜までは、普通に夕飯をべて、宿題をしていました。それが今朝になって突然……。先、失礼を承で率直にお伺いします。クラスので、蓮がいじめられたり、誰かに嫌がらせを受けたりしていませんか?」
母親としての直球の問いかけに、武田先は瞬きょとんとした顔をした、げさに両を振って笑った。
「ああ、お母さん! それでしたら、絶対にあり得ません。百パーセント保証しますよ」
「絶対に、ですか?」 「ええ。断言できます」
武田先はパイプ子を引き直し、を乗りすようにしてっぽく語り始めた。
「むしろ、その逆なんです。蓮君はね、今、うちのクラスで番されていると言ってもいいくらいなんですよ」 「……されている?」 「そうです。蓮君は元々控えめな性格でしょう? でも、クラスの男子からも女子からも、すごく事にされていてね。特に席が隣の浅井悠君なんかは、まるで自分の弟みたいに蓮君の面倒を見てくれているんです。移教のも誰かが必ず声をかけますし、の配膳のだって、みんなが蓮君を気遣っている。トラブルなんてとんでもない。うちのクラスは今、学で番団結力があって、いやりに溢れているんです」
武田先の顔には、自分の指導が実を結んでいるという純粋な自負が満ち溢れていた。 点の曇りもない、善の笑みだった。
だが、その言葉を聞けば聞くほど、私の背筋には得体のれないたいものがいがってきた。
「みんなが気遣っている」? 「事にされている」?
学の男子の教で、特定の男子徒がクラス全員から「事にされ、気遣われる」などということが、自然に起きるだろうか。 それはまるで、壊れ物か、あるいは何かなハンデを背负ったに対する扱いではないか。
「あの……先」
私は喉の渇きを覚えながら尋ねた。
「なぜ、そこまでみんなが蓮を気遣う必があるんですか? 蓮は、何か特別な配慮をするようなことを学で言ったんでしょうか」