"優しい教室で震える息子" 第1話
曜の朝、午分。
いつもなら目覚まし計の子音が鳴り響くに自分で起きがり、洗面所で寝癖を直しているはずの蓮が、いくら声をかけても起きてこなかった。
「蓮、もう回るわよ。今、直じゃないの?」
焼き魚の匂いが漂う台所から声を張りげても、廊の突き当たりにある子供部からは何の物音も返ってこない。
フライパンのを止め、エプロンでを拭きながら引き戸をけると、部のはカーテンが閉め切られたまま暗かった。 ベッドので、蓮は羽毛布団をのまですっぽりとかぶり、まるでい殻に閉じこもるようにさく丸まっていた。
「蓮? でもあるの?」
布団のから肩にを置いた瞬、びくりと体が張ったのが掌に伝わってきた。 異様なさだった。 ただの寝坊や、朝のぐずりではない。全の筋肉を極限まで引き絞って、からの接触を拒絶しているような、刺すような緊張。
額にを当てようと布団をしめくると、蓮は両でシーツの端を握りしめ、枕に顔を埋めたまま刻みに震えていた。
「……かない」
くぐもった、掠れた声だった。
「え?」 「かない。学、かない」
息が詰まるような声だった。 私は瞬、言葉を失った。
学になったばかりの蓮は、のかからない子だった。 派な自己主張はしないが、友達とトラブルを起こしたこともなく、通表にはいつも「温で周囲への配慮ができる」
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「協調性がある」とかれていた。 サッカー教にも真面目に通い、宿題を忘れて叱られたことすらない。
そんな蓮が、「学にかない」とにしたのは、まれて初めてのことだった。
私はベッドの脇に膝をつき、蓮の細い背をそっと撫でた。
「体、どこか痛いの? お腹? ?」 「……痛くない」 「は? 測ってみようか」
体温計を脇に差し込ませても、子音が告げた数字は度分。平そのものだった。 だが、青い横顔には脂汗が滲み、唇は血の気を失ってにかった。目は決して私とわそうとせず、ただじっと壁の目を凝している。
その瞳の奥にあるを見て、私の胸の奥がたくえ切った。
恐怖だ。 何かにひどく怯えている。
「蓮、何かあったの? 誰かに嫌なことされた? 先にられた?」
矢継ぎに問いかける私の言葉に、蓮はただ首を横に振るだけだった。 振るたびに、枕に擦れるシーツが乾いた音をてる。 何を尋ねても、頑なにを真文字に結び、シーツを握る指の関節がく浮きがっていた。
スマートフォンがポケットので震えた。 夫からの「社した。今夜はし遅くなる」といういメッセージと、私の勤務先からの業務チャットの通だった。
計の針は半を回っていた。 いつもなら蓮がランドセルを背負って玄関をていくだ。
「……わかった。今はとりあえず休もう。連絡入れておくから」
そう言うと、蓮の背からわずかに力が抜けたように見えた。 けれど、堵の表はどこにもなかった。ただ、処刑のをほんのし先延ばしにされた受刑者のような、暗く淀んだ差しで井を見つめているだけだった。
私は会社に半休の申請をし、学の欠席連絡フォームに理由を「体調良」と打ち込んだ、どうしても胸のざわめきを抑えきれず、職員へ話をかけた。
蓮の様子がどうしても普通ではないこと。 いじめや友関係のトラブル、学での変化に当たりがないかを尋ねたいこと。 それらを簡潔に伝えると、話にた教はし慌てた様子で、 「担任の武田から、午の空きにお話を差しげさせます」 と答えた。
だが、私は話を待つことができなかった。 子供のあの怯え切った目を目の当たりにして、リビングでじっと座っていることなど到底能だった。
「お母さん、ちょっと学にって先と話してくるね。何かべられそうなら、蔵庫にスープがあるから」
布団のの蓮にそう声をかけると、蓮の体が再び直した。
「……かないで」
掠れた、鳴にい声だった。
「先に、何も言わないで。お願いだから」 「蓮、先と戦いにくわけじゃないの。
あなたがどうしてそんなに苦しんでいるのか、お母さんりたいだけ」