"五人の元彼と三万一千円" 第14話
私はドレッサーのの、つののし袋を見つめた。
佐々さんの几帳面な字。さんの陽気な文字。藤田さんの殴りき。松本さんの繊細なペン先。林君の真っ直ぐな言葉。
彼らは誰も、私を呪っていなかった。
彼らはただ、のあの夜、焼けされた私に差しした自分たちの真を、そして私と過ごした器用な々を、汚れた借のカタにされることを拒絶したのだ。
『頼むから、俺たちの過を、ただの銭の貸借関係にき換えないでくれ』
『俺があの、君を助けたいとった純粋な気持ちまで、汚い押し売りにされてしまう気がするんだ』
胸の奥の、番固い氷が、音をてて砕け散っていくのが分かった。
私はずっと、彼らに借りがあるとっていた。
でも本当は、私は彼らに、返しようのない巨なものを、すでに受け取っていたのだ。
それはおではなく、の痛みにを差し伸べようとする、の無防備な善そのものだった。
「このおは……」
私は掠れた声で言った。
「どうすればいいの? もう度、送り返すべきなの……?」
「絶対にだめだ」
俊平は即座に首を振った。
「送り返したら、また同じことの繰り返しだ。君がまた『精算』を押し付けることになる。……このおは、僕たちが預かろう」
俊平はつののし袋を丁寧に拾い集め、それらをねて、私のクラッチバッグのへと静かに収めた。
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「彼らの名も、所も、君はもうっている。でも、今はお礼も返もしない。彼らのの通り、これは彼らからの『規格のご祝儀』として、僕たちのしい活の座に入れておこう。そしていつか、僕たちに子供がまれたり、誰かが困ったりしたときに、この万千百円を、誰かのために使おう。……それでいいじゃないか」
「俊平さん……」
「ちなよ、千里」
俊平は私のをく引いた。
引きげられた私の体を、タキシードの胸元がしっかりと受け止めてくれた。
「僕たちの結婚式を始めよう。親族も、友達も、みんなで待っている」
ドアのから、度目のノックが響いた。
「郎様、婦様……!」
「今、けます!」
俊平がドアに向かってきな声で応じた。
そして私を振り返り、鏡を指差した。
「ほら、メイクを直してもらわないと。せっかくの綺麗な顔が、台無しだ」
私は鏡を見た。
マスカラがし滲み、ファンデーションのを涙の跡がっていた。けれど、その鏡のにいたのは、さっきまでの青く怯えた能面のような女ではなかった。
、胸の奥で私を縛り続けていた錆びた鎖が、すべて元に落ちていた。
「スタッフの皆さん、入ってください!」
俊平がドアをけると、プランナーとメイクスタッフが、青ざめた顔でび込んできた。
「千里様! ご気分は……あ、あの……」
私の崩れたメイクを見て絶句するスタッフたちに、私はくをげた。
「ごめんなさい。わがままを言って、を取らせてしまって。……すぐに直していただけますか? 最の顔で、式にたいんです」
メイク担当の女性が、瞬驚いたように目を見張り、それからプロの顔に戻って力く頷いた。
「お任せください。分で、番お綺麗な状態に戻します!」
パフが肌を叩く触。たいミストが吹き付けられ、リップが塗り直される。
俊平はその横で、際よく自分のネクタイを締め直し、私の背のくるみボタンが乱れていないかを確認してくれた。
「ってまいりましょう」
プランナーが誘導の声をげた。
分。
予定より分遅れて、私たちはブライズルームをにした。
ホテルのい絨毯の廊をむ。窓のには、の澄み切った青空と、どこまでも広がる横浜のが見えていた。がく吹いているのか、港の波が太陽のを浴びてキラキラと輝いている。
なチャペルの扉のにった。
扉の向こうからは、すでに着席した親族や招待客たちの、微かなざわめきが漏れ聞こえてくる。
パイプオルガンの奏が、く厳かに鳴り響き始めた。
スタッフが私のいベールをえ、トレーンを扇状に広げる。
私のには、いカサブランカのブーケが握られていた。
そして私の腕には、俊平の差しした腕があった。
私は俊平の腕に、自分の腕を絡めた。