"五人の元彼と三万一千円" 第10話
結婚式をぶち壊しに来たのでも、私を嘲笑いに来たのでもなかった。
彼らはただ、のあの夜に差しした自分たちの純粋な善と、かつて私に向けた本物のの尊厳を、私の残酷な「精算」から守るために、このおを突き返してきたのだ。
「……あ」
喉の奥から、乾いた声が漏れた。
私の全の力が抜け、膝が折れた。
ビスチェのいボーンが脇腹に突き刺さるのも構わず、私はドレッサーに額を押し当てて、声もなく震えた。
なんて傲だったんだろう。
なんて勝で、独りよがりで、醜いき方をしてきたんだろう。
私は「誰にも迷惑をかけない派な」なんかじゃなかった。
傷つくのが怖くて、誰かにを預けるのが怖くて、の好をすべて借にすり替えて、全な所から卓を叩いていただけの、卑怯でれな臆病者だった。
「千里」
のから、静かな声がってきた。
俊平だった。
鳴るでもなく、呆れるでもなく、底れぬ痛みを湛えた声。
彼のが、私の肩に触れた。
けれど、その指先はわずかに張っていた。
「……とも、君をしていたんだな」
俊平が言った。
「彼らは君にを貸したんじゃない。君を助けたかっただけだ。そして、君と過ごしたを、切にっていた。……だからこそ、君のその清算が、耐えられないほど痛かったんだ」
私は顔をげることができなかった。
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涙が次から次へと溢れし、いサテンのドレスの胸元に、濃い染みを作っていく。メイクなんて、もうどうでもよかった。
「でも、千里」
俊平のが、私の肩かられた。
彼がすっとをかがめ、ドレッサーの脇に置かれていた、私のいクラッチバッグに再びを伸ばした。
チャックがく音がした。
俊平が引きしたのは、現でも、通帳でもなかった。
私が代の頃から肌さず持ち歩いている、使い古された黒い革の帳だった。
「……あ」
私の息が止まった。
その帳のに気づいた瞬、背の汗が気に引いて、全の血が凍りついた。
の元彼たちのよりも、過のの過ちよりも、もっと致命で、もっと決定な「私の正体」が、その帳のに閉じ込められていた。
俊平は何も言わずに、その黒い帳のページをパラパラとめくった。
パチン、と具が鳴り、あるページで俊平の指が止まった。
そこには、私と俊平が付きい始めてから今に至るまでの、あらゆる常の記録が、几帳面すぎる極細の黒ボールペンで、狂気じみた密度でびっしりとき込まれていた。
『 俊平さん、引越し伝い。お礼として昼代(パスタ)3,200円全額負担済』
『 俊平さんより誕プレゼント(キーケース)受領。推定価格18,000円。同等額の返礼としてに名刺入れ(19,500円)贈呈済。
差額1,500円は次回カフェ代にて調のこと』
『 結婚式試会。俊平さんカードにて支払い(12,800円)。翌朝、半額の6,400円を俊平さんの座へネットバンキングにて送完』
『 居用エアコン購入。折半の端数730円、俊平さんがく支払う。翌、俊平さんのスーツのクリーニング代(850円)を私が負担し、実質相殺』
俊平はページをめくるを止め、その帳簿のような帳を、私の目のに突きつけた。
彼の鏡の奥の瞳には、かつて見たことがないほどの、い絶望と疲労のが浮かんでいた。
「千里」
俊平の声は、震えていた。
「君は……僕のことも、こうやって計算していたのか?」
カチリ、と部のかりので、俊平の鏡のフレームがを反射した。
彼ののにあるさな黒い革帳。
それは私が歳のとき、あのアパートの災の直に、学の購買部で買ったものだった。最初は燃えてしまった教科やノートの買いしリストをメモするためのものだったはずが、いつのにか私ののすべてを監し、縛り付ける帳簿へと成り果てていた。
「俊平さん、それは……」
私の声は、ひび割れたガラスのように震えていた。
「見ないで。お願いだから、閉じてもらえないかしら」
「どうして見ちゃいけないんだ?」
俊平の声は鸣ってなどいなかった。むしろ、恐ろしいほど静かだった。
総務のデスクで、数字のわない領収を淡々と精査しているときと同じ、底えのするような静さだった。