"五人の元彼と三万一千円" 第3話
「なんでもないの。ちょっと……ドレスのコルセットがきつくて、息ががっちゃっただけ」
私は精杯の力で呼吸をえ、唇を噛んで血を戻そうとした。
メイクスタッフが気を利かせて、「度、し緩めましょうか」と声をかけてくれたが、私は首を振った。
「丈夫です。し座っていれば落ち着きますから。スタッフの皆さん、すみません、しだけ郎とにしていただいてもいいですか? 呼吸をえたいので」
メイク担当と着付けのスタッフは、配そうな目を向けながらも、「何かありましたらすぐに呼んでくださいね」と言い残し、静かに控えをてった。
い防音ドアが閉まり、カチャリとラッチがりる。
部のには、私と俊平のだけが残された。
窓のでは、のい陽を浴びた横浜港のクレーンが、音もなく並んでいる。くでの汽笛がく響いた。
俊平は私のにしゃがみ込み、私のえ切った両を包み込むように握った。
彼ののひらはいつも温かい。その温もりが、今の私には酷く痛かった。
「千里、本当にドレスのせいなのか?」
俊平の声は静かだったが、その奥には見過ごせない鋭さがあった。
総務部で労務やコンプライアンスを担当している俊平は、の嘘や自然な挙を見抜くことにけている。私が何かをごまかそうとしていることなど、最初から筒抜けだった。
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「さっき、プランナーさんとすれ違ったよ。にご祝儀袋を持っていた。……何かトラブルかい?」
「トラブルなんて、ないわ。ただの、配送の確認よ。親戚からの報の宛名がし違っていたとか、その程度のことで……」
「千里」
俊平は私の言葉を遮った。声を荒らげたわけではない。ただ、私の目をまっすぐに見つめていた。
「君は嘘をつくとき、必ずの薬指の爪を逆ので擦る癖がある」
私は息を呑み、慌てて指をした。
すでに指には、プラチナの結婚指輪がはめられていた。そのたい属の触が、指の腹にい込む。
「さっき、フロントのスタッフが内線で話しているのをロビーでにしたんだ」
俊平の調は、淡々としていた。
「『差の現留が通、すべて同額で届いている』って。婦側のお客さんらしいが、どう処理すべきかって相談だった。……千里、あれは何なんだ?」
「……」
「君が慌てて庫に隠させたんだろう? どうして僕に言えない? 僕たち、今から夫婦になるんだよ。何か脅迫でも受けているのか? それとも、銭のトラブルに巻き込まれているのか?」
「違うの!」
わず叫んでしまった。
声をげた自分の浅ましさに、すぐにを塞いだ。
違う。脅迫なんかじゃない。おを求されているわけでもない。
むしろ逆なのだ。
返されたのだ。
私が、私の傲と恐怖から方に送りつけた過の精算を、彼らはそのままの形で、私の顔面に投げ返してきたのだ。
俊平はちがった。
彼の線が、ドレッサーのに置かれた私のいクラッチバッグに向けられた。
バッグのから、さっき私が慌てて押し込んだ黄い保管証の端が、数ミリだけ覗いていた。
「見るな」と叫ぶもなかった。
俊平はを伸ばし、その黄い片を抜き取った。
「俊平さん、やめて!」
ちがろうとしたが、きつく締められたビスチェが邪魔をして、元がもつれた。子に倒れ込む私を瞥もしないまま、俊平は黄いにかれた受領額を読んだ。
『受領額:万千百円 計万千百円』
「……万千百円」
俊平がその数字をので転がした。
「妙な数字だな。割り勘にしたって、こんな端数はない。……待てよ」
俊平の表が、凍りつくように固まった。
何かをいしたの顔だった。
彼はクラッチバッグのチャックを完全にけた。
「勝にけないで! プライベートなものよ!」
「プライベート?」
俊平はバッグの底から、折り畳まれてヘアピンで留められていた数枚の片を引き抜いた。
のATMから発される、のご利用細票。
全部で枚。
週、のの午に、私が会社のくのメガバンクのATMで、枚ずつ指を震わせながら振り込んだ記録だった。
「……やっぱりだ」
俊平のので、がカサリと音をてた。