"消された母親席" 第17話
プツリと着信が切れる。
鳴り止んだスマートフォンは、まるで何事もなかったかのように静かにテーブルのに横たわっていた。
代はさらに操作を続け、優太の話番号を着信拒否のリストに登録した。
もう度と、この話が鳴ることはないだろう。
隣でその様子を黙って見ていた剛が、優しく代の肩にを置いた。
「それでいいんだ」
代は、静かに頷いた。
「ええ。もうあの子たちに振り回されるのは終わりにするわ」
この瞬、代はというあまりにもい、その背に背負い続けてきた「母親」という名のく、そして息苦しい字架から、完全に解放されたのをじた。
涙はもうなかった。
代わりにの奥底から、静かで、しかし確かな堵が泉のように湧きがってくる。
私は、ついに自由になったのだ。
結婚式止から週。
息子夫婦が惨な状況に陥っているという噂は、伝てに代のにも届いていた。
優太は、母親を侮辱し結婚式を台無しにした男として、会社内でのを失い、同僚たちから完全に孤しているらしい。
親戚からは連のように叱責の話が鳴り止まず、精神に追い詰められているという。
千もまた同様だった。
彼女の「体育座り」発言は、結婚式に席していたゲストたちのSNSによってまたたくに拡散された。
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「体育座り嫁」という名誉なハッシュタグまでつけられ、ネットで激しい誹謗傷にさらされているとのことだった。
友たちは、またと彼女の元からっていき、実の両親からも勘当同然の扱いを受けていると聞いた。
百万円の返還請求は、弁護士を通じて滞りなくめられている。
彼らが支払えなければ、法な続きに従い、優太の料や財産が差し押さえられることになるだろう。
全ては、彼らが自らので招いた当然の結末だった。
代は、その話を聞いても、もはや何のも湧かなかった。
ただい国のらない々の物語を聞いているかのようだった。
あのを境に、代のはきく、そして鮮やかに変わった。
勤めげた護師の仕事を、正式に定退職した。
、患者と、そして息子のために捧げ尽くしたに、自らので終止符を打ったのだ。
そして今、代は夫の剛と、穏やかで満ちりた々を過ごしている。
リビングで旅雑誌を広げながら、剛が楽しそうに尋ねる。
「代は、どこへきたい?」
代は、からの笑顔で答えた。
「そうね。沖縄の美しいも見てみたいし、で美しいものをたくさんべるのもいいわね」
剛は、きく頷いて言った。
「よし、じゃあ両方こうじゃないか。
幸い、帰ってきたおもたっぷりあるしな」
は、子供のように笑いった。
これまで息子夫婦のために費やしてきたと、おと、そして。
その全てが今、ようやく自分たち夫婦のものとして帰ってきたのだ。
あるれた、代は旧友とお茶をしていた。
友は、代の顔を見てるく言った。
「代さん、退職してからすごく表がるくなったわね」
代は、穏やかに微笑んで首を横に振った。
「そうかしら。でも確かに、肩の荷がりたというじはするわ」
友は、し気遣うように言葉をかけた。
「息子さんのこと、聞いたわよ。本当に変だったわね」
代は、過を振り払うようにはっきりと答えた。
「いいえ。あれで良かったのよ」
代は、澄んだ目をして言葉を続けた。
「私はもう誰にも振り回されない。これからは自分のを、自分のためだけにきるって決めたから」
息子夫婦との件は、代につの、しかし何よりも切なことを教えてくれた。
それは、にも限界があるということ。
そして親とてのであり、その尊厳は誰にも踏みにじられてはならないということだ。
理尽な扱いに声をげる権利。
自分自のとを守る権利。
それは、誰にでも平等に与えられているはずなのだ。
夕暮れのが差し込む庭を、剛と、ゆっくりと散歩する。
とりどりのが、に優しく揺れていた。
代は、隣を歩く夫のに自分のをねた。
「あなた、私、今本当に幸せよ」
剛は、おしそうにそのをく握り返した。
「俺もだよ。おと、こうして穏やかに過ごせる。これ以の幸せはない」
息子のことは、もう気にしていない。あれは彼らが選んだなのだ。
私は、私のをくだけ。
、護師として、母として、全力でり抜けてきた。
これからは自分のためだけに、ゆっくりとこのを歩んでいけばいい。
代のは、澄み切ったの空のように、どこまでもれやかだった。
彼女の本当のは、今この瞬から、ようやく始まったのだ。