"消された母親席" 第9話
「申し訳ございません。お父様のお名はあるのですが、お母様の沢代様のお名が、この席次表のどこにも見当たらないのですが……」
その言が、代のを永に凍りつかせた。
お名が見当たらないのですが。
受付スタッフのその言葉は、華やかな会のを切り裂いて、本の毒矢のように代の鼓膜に突き刺さった。
が止まる。呼吸も止まる。
代の臓が、まるで巨な氷の塊にでもなったかのように、ドクンと度だけきく、そしてく脈打った。
その、完全にそのきを止めた。
名がない。私の名がない。
体どういうことなのか、理解が追いつかない。
のが真っになり、考が完全に止する。
ただ、スタッフの困惑した顔と、隣につ夫剛の険しい横顔が、スローモーションのようにゆらりゆらりと揺れて見えた。
代は、かすれた声でスタッフに尋ねた。
「記載漏れでしょうか……」
スタッフは、らかに狼狽しながら答えた。
「いえ、そんなはずは……すぐに確認してまいります」
スタッフはそう言い残して、奥へとりっていった。
残された受付テーブルのに、見本として冊の席次表が置かれているのが、ぼやける界の端に映った。
代はまるで何かに操られるかのように、おぼつかない取りでそれにづき、震える指先でそっとを伸ばした。
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表に使われているのは質な漉きのだろうか。
の箔で、優太と千、の名が誇らしげに記されている。
その美しい装丁が、今の代にはまるで獄の底から送られてきた禍々しい招待状のようにしか見えなかった。
代は、ゆっくりとページをめくる。
臓が嫌な音をててきしみ始める。
郎側親族の席次が記されたページで、代の指が止まった。
番座。
そこには、力い朝体で「沢剛」という夫の名が、はっきりと刻まれている。
そしてその隣、本来ならば「沢代」と自分の名があるべき所。
そこはまるで誰かが図に消しゴムで消しったかのように、自然な空になっていた。
代の唇から、絶望のを帯びたか細いつぶやきが漏れた。
「あなたの名はあるわ。でも、私の名がどこにもない……」
そのつぶやきをにした剛が、代のから席次表をひったくるようにして、その空を睨みつけた。
次の瞬、剛の全から、これまで抑えに抑えてきたりが凄まじい勢いで噴きした。
剛の声が、ホール全体に響き渡った。
「どういうことだ?これは。代は郎の母親だぞ。その名がないなどということがあってたまるか」
周囲のゲストたちが何事かと、斉にこちらに注目する。
その好奇とれみが入り混じった線が代の体に突き刺さり、彼女をさらに惨めな気持ちにさせた。
その全ての線が集する、まさにそのだった。
背から鈴を転がすような、しかし温度というものが切じられない、氷のようにたい声が聞こえてきた。
「あら、お義母さん、来ちゃったんですね」
代がぎこちないきで、ゆっくりと振り返る。
そこには、純のを放つウェディングドレスにを包んだ嫁の千がっていた。
教会のステンドグラスに描かれた聖母のように、神々しいほどに美しい。
しかしその顔に浮かんでいたのは、慈の笑みなどではなかった。
獲物を見つけた肉獣のような、残酷な優越に満ちた勝利の笑みだった。
代は、かろうじて声を絞りした。
「千さん……これは体……」
もはや、声としての体をなしていなかった。
千は、そんな代の絶望を底楽しむかのように、ゆっくりと、そしての悪い笑みをさらにめてこう言った。
「あら、まだ分からないんですか?言葉の通りですよ」
呼吸を置いて、千はこの結婚式にいる全てのに聞こえるようにはっきりと、そして残酷に宣告した。
「お義母さんの席は元より用しておりませんと、申しげているんです」
その言葉が、これから始まる本当の獄の始まりの図だった。
代のを、そして息子夫婦の未来を、根底からそして永に覆すことになる決定な言だった。