"消された母親席" 第6話
席を奪い、装を笑い、そして今、母親としての最の役割であるスピーチの会さえも奪いった。
代は、かろうじて息子の名を呼んだ。
「優太……」
その声は、自分のものではないように掠れ、震えていた。
代は、涙をこらえきれずに優太に訴えかけた。
「どうして……私はあなたのお母さんなのよ。あなたののを、からお祝いしたいと。ただそれだけを願っていたのに」
涙が界をにじませる。
しかし優太は、母親のその痛な叫びに目をわせようともしない。
彼は気まずそうに線を彷徨わせると、さな、そして苛ちを隠せない声で呟いた。
「だから、気持ちは分かってるって。でもこれは俺と千の結婚式なんだ。主役は俺たちなんだよ」
優太は、面倒くさそうに吐き捨てるように言った。
「母さんの自己満に付きってる暇はないんだ」
自己満。
代のに、またつ鋭い棘が突き刺さる。
息子をう母親のが、ただの自己満だと断じられた。
もう、代には何も言うことができなかった。
全の力が抜け、子にく沈み込む。
まるで魂が体から半分抜けてしまったかのようだ。
打ちわせが終わり、帰途につくの。
剛は運転しながらも、代の様子を気遣うように何度も横目で見ていた。
代は、窓のを流れる景をただぼんやりと眺めているだけだった。
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剛は、く、そして配そうな声で妻に呼びかけた。
「代」
代は、ゆっくりと顔を夫の方へ向けた。
剛は、を見据えながら々しくをいた。
「本当にこのままでいいのか?あいつらは、おを母親として、いや、のとして尊する気がないんだぞ」
剛の横顔には、い憤りが刻まれていた。
「今のあれは、もうただの儘じゃない。確な侮辱だ」
その通りだった。剛の言うこと全てが正しい。
分かっている。では痛いほど理解している。
しかし代のはまだ、母親という名のく、そして断ち切りがたい鎖に縛り付けられていた。
代は、震える声で夫に返した。
「でも、私がここで何かを言えば、結婚式が台無しになってしまうかもしれない」
剛は、ハンドルをく握りしめながら声を荒らげた。
「台無しにしたのはどちらだ?おを踏みにじった、あのじゃないか」
剛の指の関節が、く浮きていた。
剛は、吐きすように言った。
「俺はもうならん」
その夜、代は眠れなかった。
ベッドので、優太の「恥ずかしい」という言葉が、何度も何度も悪のようにのを駆け巡る。
まれたばかりの優太を、初めてその腕に抱いたのこと。
さなで、必に自分の指を握り返してきたあの温かい触。
初めて「ママ」と言葉を発したのこと。
嬉しくて涙が止まらなかったあのの。
運会で番になって、ゴールテープを切った誇らしげな笑顔。
その全てが、褪せた写真のように次々と浮かんでは消えていく。
あのしかった息子は、もうどこにもいない。
目のにいるのは、母親を恥だと言い放つ、たい目をしたらない男だ。
代は、暗ので静かに涙を流した。
母親であること。
それは彼女のの全てであり、誇りそのものだった。
しかし今、その母親であることが、まるで拭いきれない罪であるかのようにく、代のにのしかかっていた。
もう、母親であること自体が罪だというのだろうか。
代のは、答えのない問いに暗くい絶望の淵へと突き落とされていく。
この先に、さらに残酷な仕打ちが待っていることなど、像する力も残されてはいなかった。
結婚式まであと週。
スピーチを拒絶されたの傷も癒えないまま、代は憔悴しきっていた。
事も喉を通らず、夜も熟できない。
鏡に映る自分の顔は気を失い、まるで幽霊のように青かった。
そんな代の様子を、夫の剛は黙って、しかし痛ましげに見つめていた。
そんなあるの夕方、代のスマートフォンがけたたましく鳴った。
画面に表示されたのは「千」の文字。
代は、臓が凍るような覚に襲われ、瞬話にることをためらった。
しかし、無するわけにもいかず、震える指で通話ボタンをスライドさせた。