"母の職場で死んでいた私" 第21話
『度と帰らない、娘をやめてやる』と言って、連絡を絶ちました。……最初の、私は図に、母への連絡を完全に遮断していました。話番号を変え、も送らず、自分がきているのかんでいるのかすら、母にらせませんでした」
乾課が眉をひそめ、野部がさく息を呑んだ。
「母を懲らしめたかったんです。私のき方を否定した母に、『自分がいなくなって苦しめばいい』という残酷な復讐から、私は自ら『者』になりすましました。……母が会社で『娘はんだ』とった、母にとって私は、本当にんでいるも同然だったのです」
私はをげた。額をに押し付け、声を絞りした。
「母のさを擁護するつもりはありません。母がついた嘘は、決して許されるものではありません。けれど、その嘘をも解けない呪いに変えてしまったのは、私の酷さと比べのような沈黙でした。……どうか、母を責めないでください。騙していたのは、私たち母娘です。本当に……申し訳ありませんでした」
のたさが、涙で温められていくのをじた。 隣で、母が声を押し殺して泣いていた。 私のを握る母の指先が、千切れそうなほどくい込んできた。
い、い沈黙が流れた。
計の針のむ音だけが、カチ、カチと規則正しく鳴り響いていた。
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やがて、子の軋む音がした。 内さんが、ゆっくりとちがった。
彼は机を回り込み、に平伏する私たちのまで歩いてくると、母のでを止めた。
「……津田君」
内さんの声は、驚くほどく、掠れていた。
「君の娘さんは、派に育ったな」
母の肩が、激しく波打った。
「だがね……」
内さんは、それ以、優しい言葉をかけることはしなかった。 その声には、許しではなく、い、い諦が籠もっていた。
「君たちがどんな事を抱えていようと、野君の奪われた青は戻らない。佐藤君が流した悔し涙も、消えはしない。……私自が、部たちを切り捨てて君を守ってしまったという罪悪も、墓まで持っていくしかない」
内さんは、母が差しした封筒を瞥した。
「おを返し、退職を削られたところで、君の犯した罪が消えるわけではないんだよ。……君はこれから、自分が何をしてき延びてきたのかを、その背に背負ってきていきなさい」
内さんはそれだけ言うと、度も振り返ることなく、会議の引き戸をけててった。 バタン、と扉が閉まる乾いた音が、すべての審判の終わりを告げていた。
野部が、静かにちがった。
「類の処理は、郵送でいます。……私物の引き取りは、本の昼休み、の社員がいない帯に済ませてください。
それでは」
が次々と部をてった。 最に残された組の女性代表が、扉にをかけたまま、にうずくまる母をれむような目で見つめ、さくため息をついて部をてった。
会議には、私と母のだけが取り残された。
窓のの鈍の空から、っすらとが切れ、々しいの差しが差し込んでいた。 のに落ちた私たちのは、ひどく歪で、さかった。
*
昼の分。 チャイムが鳴り、社員たちが堂へ移したの、ガランとした事務所へ母とで入った。
蛍灯が半分消された暗いフロア。 母の机は、窓際の隅にあった。 、母が座り続けた席。
机のには、すでに母の私物が段ボール箱つにまとめられていた。 誰が詰めてくれたのかは分からない。 ただ、事務用のクリップ入れ、使い古したペンて、腱鞘炎予防のリストレスト、そして――引きしの奥に隠されていたという、歳の私の陸競技会の写真てが、番に無造作に放り込まれていた。
母は震えるでその段ボール箱を抱えげた。 デスクの引きしをつずつけ、忘れ物がないか確かめる。 には何も残っていなかった。 の痕跡は、たった分で、綺麗さっぱり消しられていた。
事務所をて、気のなくなった階の廊を歩いていただった。
「……敏子さん」
背から、呼び止められた。
振り返ると、廊の非常の脇に、さんがっていた。 制のカーディガンのポケットに両を突っ込み、ひどく疲れた顔をしていた。