"母の職場で死んでいた私" 第11話
の央には、母の柔な笑顔の写真が貼られている。 その周りを埋め尽くす、温かいメッセージの数々。
『津田さん、いお疲れ様でした。々なしみを乗り越えて、気丈に働き続けるお姿に、いつも勇気をいただいていました』 『国の美紀ちゃんも、きっと今の津田さんのれ姿を、誇らしく見守ってくれているはずです』 『これからは、ご自のを切に、どうかお体に気をつけてお過ごしください』
『国の美紀ちゃん』。
その文字を見た瞬、私の喉の奥から、乾いた笑いが込みげてきた。
「あは……あははは……!」
「美紀、やめなさい……!」
「国だって! お母さん、見てよこれ! 私、国にいるんだって! 国からお母さんのれ姿を見守ってたんだってさ!」
私はを座卓のに叩きつけた。 乾いた破裂音が、静かな部に響き渡る。
「みんな、信じてたんだよ! お母さんがどんなに辛くても、くなった娘のために健気に働いてるって……! その清らかで健気な『お母さん』を演じるために、私のを塗りつぶしたの?! 私は京で、啜って、終逃して劇ので寝泊まりして、必に自分のでとうとしてたのに……! 私が汗垂らしてきてる、お母さんは私の『体』のに座って、ぬくぬくと定まで守られてたんだ!」
「あんたに何がわかるッ!」
母がちがり、座卓を両でバンと叩いた。
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「守られてた?! ぬくぬくきてた?! ふざけないで! 私がどれだけ獄だったか、あんたに像がつくの?!」
母の顔は涙とでぐしゃぐしゃになっていた。
「会社で笑うこともできなかったのよ! 忘会でみんなが楽しそうに次会へくも、私は『娘をくした母親』だから、真っ直ぐ暗いに帰らなきゃいけなかった! 綺麗なを着て社したら『津田さん、し元気になったみたいね』って囁かれるから、ずっとな、のばかり着てた! 旅にもけない、美しいものをべにってもに言えない……! 誰かに見られたら『娘がんだのに楽しそうにしてる』ってわれるから!」
母の叫びは、もはや理性を失っていた。
「、私は度も声で笑ったことがないのよ! 会社にいるじゅう、ずっと針の筵のに正座させられてるみたいだった! あんたがに連絡してきた、私がどんないだったか……! 『きてた、よかった』ってしたのと同に、私のは完全に終わったって絶望したのよ! だって、もう戻りできないところまで来ちゃってたんだから!」
「じゃあなんで、あの言わなかったのよ!」
「言ったら逮捕されるとったのよッ!」
母の鳴のような叫びが、部の空気を切り裂いた。
「互助会のおも使っちゃってた! 転勤も断っちゃってた! リストラでのを辞めさせちゃってた! 今さら『きてました』なんて言ったら、詐欺罪で警察に突きされるとったのよ! 会社をクビになって、退職も没収されて、所のたちからろ指を指されて……そんなことになったら、私は首を括るしかなかったのよ!」
母は座卓に突っ伏し、声をげて泣き崩れた。 歳の、さく縮こまった背が、痙攣するように波打っている。
「怖かった……ずっと怖かったのよ……。いつバレるか、いつ誰かに見つかるか……毎朝、タイムカードを押すたびに、臓が破裂しそうだった……。定まで、あと何、あと何ヶ、あと何……それだけを数えて、息を止めるようにしてきてきたのよ……!」
部のに、母の醜い、れな嗚咽だけが響いていた。
私は、ち尽くしたまま、その背を見つめていた。 りは消えなかった。 だが、そのりのに、底れない虚しさと、え切ったれみが広がっていくのをじていた。
母は、悪魔ではなかった。 ただの、救いようのないほどく、卑怯で、愚かなのに過ぎなかった。 最初の歩を踏みした、引き返す勇気を持てなかっただけの、どこにでもいる平凡な者。
そしてその者がき延びるために選んだ代償が、実の娘の『』だった。
そのだった。
座卓のに置かれていた、母の古いスマートフォンが、ブブッ、とく震えた。
静まり返った部に、その振音は気なほどきく響いた。 画面が青く発し、ロック画面にメッセージの通が表示される。