"母の職場で死んでいた私" 第5話
母の声は、もはや叫びというより、獣の軋るような呻きだった。
「そしたら次のから、みんなの態度がガラリと変わったのよ! いつも嫌ばかり言っていた司が、腫れ物に触るみたいに優しくなって、お茶しの当番も免除されて……みんなが私をだって、な母親だって、労わってくれるようになったのよ! 嘘でした、ただのでしたなんて、次のに言えるわけないじゃない! 恥ずかしくて、言えるわけないでしょう?!」
「だからって……!」
「週が過ぎて、ヶが過ぎて……あんたからは本の話もかかってこない!」
母の指先が、今度は私を激しく指弾した。
「あんた、てってから何連絡を寄こさなかった?! 最初の、あんたがどこで何をしてるか、きてるのか野垂れんでるのか、私には何も分からなかったのよ! 連絡先も教えずに消えたのはあんたでしょう?! その、私はどんな顔をして会社にいればよかったのよ! 本当にんだかもしれないといながら、周囲の同を断れるわけがないじゃない!」
私は、喉の奥が詰まったように言葉を失った。
最初の。 その数字が、私の胸を抉った。
そうだ。 私は、をてからの、母に切の連絡をしなかった。 専学を卒業し、劇団の具会社に拾われ、がむしゃらに働いていたあの頃。
広告
母に居所をられたら、連れ戻されるとった。 何より、「お母さんがいなくても私はで派にきていける」ということを証したくて、を張って、話番号も変え、の通も送らなかった。
私が母に最初の連絡を入れたのは、の、胃潰瘍で倒れて入院しただった。 病院のベッドで細さに耐えかねて、震える指で実に話をかけたのだ。 母は話で絶句し、翌には幹線に乗って京の病院へ駆けつけてくれた。 それからしずつ、ぎこちないながらも連絡を取りうようになり、に回、盆と正にだけ顔をわせる関係が修復されていったのだ。
だが。
「じゃあ……」
私の声は、ひどく掠れていた。
「に、私が連絡したは? 私が入院して、お母さんが京に来てくれた……あのなら、会社に言えたじゃない。『娘は見つかりました、きていました』って、言えたじゃない!」
「言えるわけないでしょうッ!!」
母がちがった。 その顔は、狂気じみた歪みを帯びていた。
「もうも経ってたのよ?! 互助会からおももらって、転勤も免除してもらって、リストラからも守ってもらって……社内の全員が、私の娘はんだと信じ切ってるのよ! その積みげたものを、全部ひっくり返して『実はきてました、してただけでした』なんて言ったら……私はどうなるの?! 詐欺師じゃない! 嘘つきの、でなしじゃない! そんなこと言ったら、私の居所なんて、あの会社に寸たりとも残らないわよ!」
母の言葉が、私のから容赦なくり注ぐ。
「あんたは京で、自分の好きなことやって、好き勝にきてきたからいいわよ! でも私は?! 私はあの町で、あの会社で、定まであと何も働かなきゃきていけなかったのよ! 私のを、あんたのその軽々しい『きてました』で壊されてたまるもんですか!」
息が止まりそうだった。
母にとって、私のは。 私の命は。 自分の職の関係と、世体と、平穏な定退職の権利よりも、軽いものだったのだ。
「……だから、私を殺したの?」
私は、自分の声がどこからているのか分からなかった。
「お母さんのその、みっともないプライドと、居所を守るために……会社ので、私を、体にしておいたの?」
母は、私の目をまっすぐに見ることができなかった。 線を泳がせ、荒い呼吸を繰り返しながら、ただ自分の胸元にあるコサージュを、震えるでく握りしめた。
赤との、引のコサージュ。 『祝・定退職 津田敏子殿』との文字で印刷された、誇らしげなリボン。
母が、この会社にのすべてを捧げて、ようやくに入れた栄の証。
その元に、私のが、ゴミのように転がっていた。
「……敏子さん」
さんが、静かに、しかし底えのするような声で呟いた。
「あなた、最よ」